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宮崎駿の最後の監督作品といわれている「風立ちぬ」。
主人公の堀越二郎は美しい飛行機を造るのが夢でした。
二郎が,夢の中でイタリアの設計家カプローニとはじめて会うシーンで,カプローニが,少年の二郎に言います。
『ふふふ,おもしろい。
まさに夢にちがいない。
この世は夢。
わが王国にようこそ』
『いいかね,日本の少年よ。
飛行機は,戦争の道具でも,商売の手立てでもないのだ。
飛行機は美しい夢だ。
設計家は夢に形を与えるのだ』
カプローニは,物語の節目で二郎に助言を与えます。
メフィストフェレスのように。
関東大震災後,大学の書物を火災から守ろうとしている二郎とカプローニの会話。
カプローニ『まだ風は吹いているか,日本の少年よ』
二郎『はい,大風が吹いています』
カプローニ『では,生きねばならん』
二郎は,飛行機を造れば戦争に使われることがわかっています。
それでも,二郎は美しい飛行機を造りたい。
カプローニが,設計士になった二郎に言います。
『空を飛びたいという人類の夢は呪われた夢でもある。
飛行機は殺戮と破壊の道具になる宿命を背負っているのだ』
『創造的人生の持ち時間は10年だ。
芸術家も技術家も同じだ。
君の10年を力を尽くして生きなさい』
二郎が最初に設計した飛行機は失敗します。
軽井沢で傷心を癒やす二郎と謎のドイツ人カストルプが出会います。
ふたりがホテルのテラスで交わす会話に,ファシズムに対する評価がよく現れています。
カストルプ『ユンカース博士はオワレマス』
二郎『おわれる?』
カストルプ『セイフとケンカシテル。ハレツスル』
二郎『ヒットラー氏の政権とですか?』
カストルプ『あれは,ならずもののあつまりだ』
映画のラスト,夢の中で,二郎とカプローニが話します。
二郎『ここは私たちが最初にお会いした草原ですね』
カプローニ『われわれの夢の王国だ』
二郎『地獄かと思いました』
カプローニ『君の10年はどうだったかね。
力を尽くしたかね』
二郎『はい。終わりはズタズタでしたが』
カプローニ『国を滅ぼしたんだからな。
あれだね,君のゼロは』
『美しいな。
いい仕事だ』
二郎『一機ももどって来ませんでした』
カプローニ『飛行機は美しくも呪われた夢だ』
『君は生きねばならん』
二郎は,自分の設計する飛行機が戦争に使われることがわかっていました。
それでも,二郎は,美しい飛行機を作りたかった。
二郎は,愛する菜穂子を失い,精魂込めた飛行機を失い,そして,多くの若者の命が失われました。
そんな二郎が,戦後を生きなければならなかったことは,さぞ辛かっただろうと思います。
しかし,宮崎駿は,懸命に生きた二郎を一切擁護していません。
「風立ちぬ」には,戦争を美化する要素は一片もないのです。
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