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思い出 ☆ あさもりのりひこ No.118

フレドリック・ブラウンの短編小説にこんな作品がある(題名は忘れた)。

 

 男が公園のベンチに座って,うたた寝している。

 彼は目覚める。

 これから,恋人にプロポーズするために,恋人の家に行くのだ。

 約束の時間まで少し余裕があったので,公園で時間をつぶしていて,うたた寝してしまった。

 彼は,恋人の家に向かって歩きはじめる。

 寝ていたせいか,足取りが少し重い。

 きっと,彼女は彼のプロポーズを受け入れてくれる。

 彼は,恋人と結婚して,幸せな家庭を築くことを考えて,幸福な気持ちになる。

 恋人の家に着いて,ドアをノックする。

 小さな男の子がドアを開けてくれる。

 あれ,弟がいたっけ?

 彼は,男の子に,自分の名前を名乗って,恋人がいるかどうかたずねる。

 すると,男の子は部屋の奥に向かって大きな声でこう言う。

 「おばあちゃん!また,おじいちゃんがボケてるよ!」

 

 こわい話である。

 彼は,人生で最も幸せだった記憶をすべて失っているのだ。

 

父から電話があった。

勤めている会社に退職届を出さないといけないのだが,退職届の書き方がわからないので教えてほしい,という。

私は,ゴールデンウィークにそっちへ行くので,会ったときに教えるよ,と答えて,電話を切った。

 

父は86才で,母といっしょにケアハウスで暮らしている。

 勤めていた会社は20年以上前に退職している。

 痴呆症が進んで,ときどき的外れの電話をかけてくるようになった。 

 電話をかけてきたとき,父の頭の中では,父は65才で会社に勤めていたのだろう。

 

父が16才のとき,日本は戦争に負けた。

 父の頭の中で,父は16才で,戦争が終わって,進駐軍の基地でアルバイトしているとしたら,父は私が誰かわからないだろう。