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尾道3部作 ☆ あさもりのりひこ No.122

ミステリー映画の醍醐味は謎解きである。

最後に,あっと驚く種明かしがある。

この謎解き,種明かしが鮮やかであればあるほど,映画は面白くなる。

 「殺しのドレス」「シックスセンス」「幻影師アイゼンハイム」「ユージュアルサスペクツ」などはこの手の名作である。

 

 ところが,あっと驚く展開になるが,その謎解き,種明かしはしない映画もある。

 

たとえば「ある日どこかで」

主人公リチャードはタイムスリップする。

しかし,どういう理屈でタイムスリップできるのか?どうしたら現代にもどれるのか?はテーマではない。

その後のストーリーこそが主題である。

 

たとえば「転校生」

中学生の斎藤一夫と斎藤一美は,寺の階段を転げ落ちて,体と心が入れ替わってしまう。

 ふたりはなぜ入れ替わったのか?どうやって元に戻るか?はテーマではない。

 

たとえば「時をかける少女」

主人公の芳山和子はテレポーテーションとタイムリープができるようになる。

 しかし,なぜそんなことができるようになったのか?その能力を何に使うか?はテーマではない。

 

たとえば「さびしんぼう」

 主人公ヒロキの前に,さびしんぼうであるタツコがあらわれる。タツコは何者なのか?タツコはどこからきたのか?はテーマではない。

 

「転校生」「時をかける少女」「さびしんぼう」は大林宣彦監督の尾道3部作である。

尾道3部作に共通するのは,いずれも奇妙な出来事に主人公が巻き込まれるのであるが,彼らはその原因を追及したり,解決方法を探したりしない,ということである。

 

 体と心が入れ替わってしまった,さて,どうしたら元に戻れるのだろう,と必死に解決策を探すことはしない。

 

 テレポーテーションとタイムリープができるようになった,さて,この力を何に使おう,と悩んだりしない。

 

 自宅にタツコというわけのわからない者が現れた,さて,その正体をつきとめよう,とはしないのである。

 

 大林宣彦の作品の主人公たちは,置かれた状況の中でベストを尽くす。

 

 心身の入れ替わりも超能力もメインテーマではない。

 それらはあくまで装置のひとつにすぎない。

 そのような状況の中で,彼らは,何を想い,何を感じるか。

 大林宣彦が描いたのは「切なさ」である。