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方便について ☆ あさもりのりひこ №217

まさか、「沖繩は快適なリゾートだから、出たくない」というような「本音」を公的にアナウンスするわけにはゆかない。

それは「日本はアメリカの属国です」という天下周知で、日本人だけが知らないふりをしている「事実」を認めることになるからである。

 

 

2011年2月23日の内田樹さんのテクストを紹介する。

どおぞ。

 

 

鳩山前総理の「方便」発言へのメディアのバッシングが続いている。

普天間基地の県外移転構想が破綻したときに、前総理が口にした「海兵隊の抑止力」という言葉がその場しのぎの方便だったと、琉球新報へのロングインタビューで答えたことへの批判である。

海兵隊の沖縄駐留には抑止力などという軍事的な理由付けはなかった、ということを外交交渉の当事者がカミングアウトしたのである。

このことがどうして批判の対象になるのか、私にはその理由がよくわからない。

現に、琉球新報の解説記事は、この発言が基地問題の本質を露呈させたとして、一定の評価を与え、単なる失言問題に矮小化しようとしている中央のメディアに対してあらわな不信感を示している。

鳩山前総理がインタビューで暴露したのは

(1)海兵隊の沖縄駐留には軍略上の必要性はない

(2)前総理の県外(できれば国外)移転構想に複数の閣僚と官僚たちが激しく反対した

という二点である。

これは沖縄における基地問題を考察する上で、今後の議論の基本になるべき情報だと私は思う。

だが、その発言について、中央のメディアは内在的な吟味抜きに、「鳩山またも失言」という論調で冷笑的に扱い、鳩山談話全体を「まともに論じるに値しないもの」と印象づけようとしている。

私は前に鳩山前総理の「抑止力」発言について、これは「沖縄の基地には核があるかもしれない」という外交的な「ブラフ」の有効性について、在沖繩米軍の司令官クラスから説明を受けたのではないかと推測した。

その推測は鳩山さんには裏付けていただけなかったが、「とても国民にはいえないような理由で」沖縄に米軍基地が置かれているという推理そのものは間違っていなかったようである。

「とても国民には言えないような理由」とは何か。

それが「非核三原則により、ないことになっている」核兵器でないとすれば、残りは一つしかない。

それは「沖縄がアメリカの在外基地の中でもっとも快適で、もっとも安全で、もっともコストの安い基地だから」というものである。

米軍基地は東アジア全域で縮小されているが、その大きな理由は、駐留先からの「出て行ってくれ」という激しい要求に屈服したせいである。

基地の外に出るとどこでも敵意にみちた視線を浴びる、というのが今のアメリカの在外基地兵士たちの実情である。

前にも書いたが、アメリカの軍事的パートナーである韓国の軍人たちへのアンケートで「一番嫌いな国」の第一位はアメリカであり、「これから戦争する可能性がある国」の第一位もアメリカである。

それが38度線を抱えた臨戦国家の兵士たちの、同盟国に対するリアルな感情である。

他国においておや。

だから、フィリピンでも、韓国でも、1990年代から米軍基地は急ピッチで縮小されることになったのである。

その中にあって、一人日本だけがいまだに「在日米軍基地は必要だ」ということを政治家も官僚もメディアも言い募っている。

そんな国はもう東アジアでは日本しかない。

アメリカ軍にとって、日本列島はいまや「世界で一番居心地のいい場所」、たぶん世界で最後に残されたアメリカ軍ご用達の「リゾート」なのである。

ここを追い出されたら、もう行くところがない。

だから、いる。

その程度の理由で米軍は沖縄に基地を置いている。

それを知って、鳩山さんは 呆然としたのである。

というのが、私の推理である。

まさか、「沖繩は快適なリゾートだから、出たくない」というような「本音」を公的にアナウンスするわけにはゆかない。

それは「日本はアメリカの属国です」という天下周知で、日本人だけが知らないふりをしている「事実」を認めることになるからである。

しかたがないので、「抑止力」という手垢のついた用語を一時の方便に使った。

そういうことではないかと思う。

もちろんこれは素人の床屋政談に過ぎない。

けれども、「方便」の語義について、私の解釈以上に説得力のある解釈があれば、誰か教えて欲しい。

メディアの解釈は「鳩山の言うことには何の意味もない」というところで停止している。

沖縄のことについては何も考えたくない、というメディアの気持ちは私にもわかる。

日米がイーブンパートナーではないということを受け容れない限り、沖縄で起きていることは説明できないからだ。

そのことを認めるのが日本のエスタブリッシュメントにとってはたぶんきわめて不快なのであろう。

 

だが、どれほど不愉快であろうと、そこから話をはじめなければ、私たちはどこへも行けない。