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平成の開国論 ☆ あさもりのりひこ №219

そして、グローバルな消費者行動パターンから逸脱する個体が多ければ多いほど、その国の市場は「成熟している」と考えてよいと私は思っている。

消費者全員が同じような規格の同じような商品に雪崩打つというのは、企業からすれば最低のコストで最高の利潤が得られる夢のような消費行動であるが、そういうのは「未成熟な消費者」である。

市場が成熟すると消費者はそのような行動を取らなくなる。

そうすると少数の独占的な企業が市場を支配したり、投機マネーによって商品価格が乱高下するということも起こりにくくなる。

市場の成熟とは消費行動における「パーソナルな要素」の増大のことである。

 

 

2011年2月24日の内田樹さんのテクストを紹介する。

どおぞ。

 

 

「平成の開国論」とりわけTPPについて、「いかがなものか」という持論を申し上げる。

TPPに限らず、アメリカのグローバリズム戦略の基本には、「最終的に人間は自己利益を最大化するように行動する」という人間観が伏流している。

つまり、市場に国産品より1円でも安い外国製品があれば、消費者は迷わずそちらを買う、という人間観である。

自国産業の保護育成なんか知ったことではない。1円でも安いものを買うのが消費者の権利であり、かつ義務である、と。

国が亡びても、自分の財布が潤うなら、アイドンケアー。

そういうのが人間の天然自然の姿である、と。

そういう人間たちばかりで世界市場は構成されているという前提から「国際競争力」という概念が導出されている。

私はそれは違うだろうと思う。

すべての人間が「金で動く」わけではない。

中には「金では動かない人間」もいる。

そして、「人間が金で動く仕方」は世界共通であるが、「人間が金で動かない仕方」は国ごと、地域ごとに異なっている。

私は「人間が金では動かない仕方」(言い換えれば「金以外のファクターで動く仕方」)にローカリティというものは宿ると考えている。

例えば、私は安い洋材を使わず、割高な国産の美山杉と飛騨檜を使って家を建てるのだが、それは「日本の林業を守るのは、日本人ひとりひとりの義務である」と思っているからである。

「日本の林業を守る」などというと一般論じみているのでやめるが、もっとスペシフィックに言えば、「美山の哲学するきこり」小林直人さんの育てた美山の杉で家を建てるという約束を20年前にしたからである。

こういう約束ごとは景況とも市場価格とも関係がないし、日本の木材の国際競争力とも関係がない。

私と小林直人さんとのあいだの信義の問題である。

そういうごくごく個人的あるいは地域限定的な要素によって市場における消費者の行動は変化する。

そういうものだと思う。

そして、グローバルな消費者行動パターンから逸脱する個体が多ければ多いほど、その国の市場は「成熟している」と考えてよいと私は思っている。

消費者全員が同じような規格の同じような商品に雪崩打つというのは、企業からすれば最低のコストで最高の利潤が得られる夢のような消費行動であるが、そういうのは「未成熟な消費者」である。

市場が成熟すると消費者はそのような行動を取らなくなる。

そうすると少数の独占的な企業が市場を支配したり、投機マネーによって商品価格が乱高下するということも起こりにくくなる。

市場の成熟とは消費行動における「パーソナルな要素」の増大のことである。

それを私は「人が金だけで動くわけではない仕方」と呼んだのである。

TPPFTAが前提にしているのは、「金だけで動く消費者」、つまり「つねにもっとも安い価格でもっとも高い質の商品を選択する消費者」というモデルである。

繰り返し言うが、成熟した市場はそのような人々だけによって構成されているわけではない。

「金では動かない」人はローカルな存在であり、その行動をグローバル経済のスペシャリストたちは予測することができない。

私はこれから先、景況とも物価とも無関係な消費行動、「非経済的な」消費行動をする人が増えてくるだろうと思っている。

それは国のローカリティの個人レベルでの表出であり、いささかオーバーな表現を許していただければ、その共同体の唯一無二性の現れだろうと思う。

日本の森林資源を守るために投資しませんかという詐欺に多くの人がひっかかった。中には数千万円を失った人もいるそうである。

この詐欺師の「日本の貴重な森林や水資源が外国の投資筋に買いあらされています。日本の国土を守るのはあなたがたしかいません」というアオリにくらくらして大枚を投じたのである。

もちろんそこにいくばくかの射幸心がなかったとは言わない。けれども、「日本の森を守る」というような非経済的な動機づけによって貯金を取り崩した人々の行動には「ローカルなものへの固着」がたしかに含まれている。

 

ある意味ではこの詐欺師たちは、TPP派の人々よりも日本人の心性に通じていると私は思うのである。