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グローバリストを信じるな ☆ あさもりのりひこ No.224

「生産性の低い産業セクターは淘汰されて当然」とか「選択と集中」とか「国際競争力のある分野が牽引し」とか「結果的に雇用が創出され」とか「内向きだからダメなんだ」とか言っている人間は信用しない方がいい、ということである。

 

 

2011年10月25日の内田樹さんのテクスト「グローバリストを信じるな」を紹介する。

どおぞ。

 

 

驚くべきことに、アメリカが「かたちのあるもの」として売れるのはもはや農産物だけなのである(あと兵器があるが、この話は大ネタなので、また今度)。

農産物はそれは「その供給が止まると、食えなくなる」ものである。

Googleのサービスが停止したり、Appleのガジェットの輸入が止まると悲しむ人は多いだろうが(私も悲しい)、「それで死ぬ」という人はいない(と思う)。

日本列島からアメリカの弁護士がいなくなっても、アメリカ的医療システムが使えなくなっても、誰も困らない。

でも、TPPで日本の農業が壊滅したあとに、アメリカ産の米や小麦や遺伝子組み換え作物の輸入が止まったら、日本人はいきなり飢える。

国際価格が上がったら、どれほど法外な値でも、それを買うしかない。そして、もし日本が債務不履行に陥ったりした場合には、もう「買う金」もなくなる。

NAFTA(North America Free Trade Agreement)締結後、メキシコにアメリカ産の「安いトウモロコシ」が流入して、メキシコのトウモロコシ農家は壊滅した。そのあと、バイオマス燃料の原材料となってトウモロコシの国際価格が高騰したため、メキシコ人は主食を買えなくなってしまった。

基幹的な食料を「外国から買って済ませる」というのはリスクの高い選択である。

アメリカの農産物が自由貿易で入ってくれば、日本の農業は壊滅する。

「生産性を上げる努力をしてこなかったんだから、当然の報いだ」とうそぶくエコノミストは、もし気象変動でカリフォルニア米が凶作になって、金を出しても食料が輸入できないという状況になったときにはどうするつもりなのであろう。同じロジックで「そういうリスクをヘッジする努力をしてこなかったのだから、当然の報いだ」と言うつもりであろうか。

きっと、そう言うだろう。そう言わなければ、話の筋目が通らない。

でも、こういうことを言う人間はだいたい日本が食料危機になったときには、さっさとカナダとかオーストラリアとかに逃げ出して、ピザやパスタなんかたっぷり食ってるのである。

TPPについて私が申し上げたいことはわりと簡単である。

「生産性の低い産業セクターは淘汰されて当然」とか「選択と集中」とか「国際競争力のある分野が牽引し」とか「結果的に雇用が創出され」とか「内向きだからダメなんだ」とか言っている人間は信用しない方がいい、ということである。

そういうことを言うやつらが、日本経済が崩壊するときにはまっさきに逃げ出すからである。

彼らは自分のことを「国際競争に勝ち抜ける」「生産性の高い人間」だと思っているので、「いいから、オレに金と権力と情報を集めろ。オレが勝ち残って、お前らの雇用を何とかしてやるから」と言っているわけである。

だが用心した方がいい。こういう手合いは成功しても、手にした財貨を誰にも分配しないし、失敗したら、後始末を全部「日本列島から出られない人々」に押しつけて、さっさと外国に逃げ出すに決まっているからである

「だから『内向きはダメだ』って前から言ってただろ。オレなんかワイキキとバリに別荘あるし、ハノイとジャカルタに工場もってっから、こういうときに強いわけよ。バカだよ、お前ら。日本列島なんかにしがみつきやがってよ」。

そういうことをいずれ言いそうなやつ(見ればわかると思うけどね)は信用しない方が良いです。

 

私からの心を込めたご提言である。