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改憲のおねがい ☆ あさもりのりひこ No.250

日本国憲法はその前文から全条文に至るまで、「アメリカの作品」である。

それも「きわめてできのよい作品」である。

 

 

2013年1月25日の内田樹さんのテクスト「改憲のおねがい」を紹介する。

どおぞ。

 

 

「知への好奇心」の打ち上げで、ワルモノ先生を囲んでわいわい飲んでいるうちに、安倍政権の改憲についてのロードマップが話題になった。

7月の参院選でそれなりの議席を獲得したら、秋から改憲の動きが加速するだろうから、それに備えて「護憲の全国的なムーブメント」を組織化する必要があるのでは・・・という話だった。

私の考えは、少し違う。

最終的に護憲運動の柱になるのはアメリカだろうと思っているからである。

常識的に考えればわかることだが、改憲論者がうるさく主張しているように、現行憲法は「アメリカが押しつけた憲法」である。

なぜ「押しつけた」かといえば、アメリカの建国理念が「普遍的に正しい」とアメリカ人たちが信じてたからである。

日本国憲法はその前文から全条文に至るまで、「アメリカの作品」である。

それも「きわめてできのよい作品」である。

これと自民党の改憲草案を読み比べて「自民党案の方がいいじゃないか」という判断を下す人間は少なくともホワイトハウスにはいない。

たぶん一人もいないと思う。

集団的自衛権については「日本が『アメリカ軍のお手伝いをしたい』と進んで言ってくれるのなら、断ることはないじゃないの」という意見がホワイトハウス部内でも過半だろう。

でも、「日本人が改憲したいというなら、させればいいじゃないか。だいたい自国でも実現できないようない高邁な政治的理想を他国に武力で押しつけるというのがアメリカの一番いけないところなんだよ!」と声高に進言する人がホワイトハウスのスタッフになっている蓋然性はきわめて低い。

天文学的に低い。

だから、集団的自衛権については「好きにしたら」という放任の構えのアメリカも、「改憲」ということになると、「ちょっと待った」をかけてくる可能性が高い。

キミたちは自分が何をしているのかわかっているのか、と。

もしそれが「改憲しないと、集団的自衛権を縦横に駆使してアメリカのお手伝いをすることができない」という理由からであるなら、それはご心配には及ばないよ。

集団的自衛権は行使していただく。でも、改憲はしなくてよろしい。

アメリカのために集団的自衛権を行使してくれるのは「アメリカの世界戦略を断固支持する」という日本政府の意思表示としてありがたく受け取ろう。

でも、改憲が「アメリカが日本に与えた国家理念を廃棄する」という意思表示である以上、われわれとしてはそれほどにこやかには受け容れられない。

われわれが諸君に求めているのは「いついかなる場合でもアメリカが求める要求に『イエス』という国であること」であるということは先刻ご承知であろう。

だとすれば、われわれが諸君に何を要求しているかはおわかりの筈だ。

集団的自衛権は行使していただく。アメリカのために戦争はしていただく。でも、「交戦権を放棄する」というアメリカの作った憲法はそのまま保持していただく。

なにしろあれはアメリカ人の「理想」を文書化したものだからね。

粗略に扱ってもらっては困る。

キミたちに許されているのはあくまで「アメリカの指揮下に戦闘行動をとる権利」までであって、「アメリカを含めて世界のどの国とでも戦争できる権利」ではない。

そのへんの筋目はきちんと通してもらわんとね。

というようなことを改憲が政治日程に上ってきたときのどこかの時点でアメリカが「やんわり」と言ってくるはずである。

日本に向かってというのではなく、政治用語でいう「廊下(couloir)」で、ホワイトハウス高官の誰かがぼそっと呟くのである。

もちろん「アメリカのご意向を忖度することのプロ」である外務省や防衛省の官僚たちがこれを聞き逃すはずがない。

「やばいっすよ、総理。アメリカ、改憲あまり喜んでないみたいですよ。総理から、大統領にひとことお願いしますよ。」と安倍さんに耳打ちすることになる。

総理はやむなく大統領に電話をかけて、こう言うことになる。

「あ、どうも。こんばんは。安倍です。まことに申し上げにくいことではありますが、あのアメリカにせっかく作って頂いた憲法の件ですが。急速なグローバル化の進む昨今においては時代遅れの感が拭えません。ここはひとつ『廃品』ということにさせて頂きたい、と。いやいや、これまでこのアメリカ製憲法によってわたくしどもがこうむった多大の恩恵についてはこの通り叩頭して感謝するにやぶさかではありません。はい、日本国憲法ばんざい。憲法さま、ありがとうという気持ちにおいて私、人後に落ちるものではございません。ですが、政治経済のですね、この急速なグローバル化に憲法が対応できないということは、これは時勢のしからしむるところでありまして。何より、この憲法がジャマをしてこころゆくまでアメリカのお手伝いができないということが頻繁にある。私どもとしては、これからも粉骨砕身アメリカのお役に立ちたい、と。これはもう私どもの赤誠を信じて頂きたい。で、そのためにもアメリカ手作りのこの憲法にはこのあたりで消えていただかねばならぬわけです。は、いや、自分でも言っていることが前後相矛盾しているような気がしてますけれど・・・とにもかくにも、アメリカの建国理念が世界を席巻し、世界中の国々がついに残らずアメリカの建国の理想を体現するに至る未来社会の実現のためにも、まず日本がアメリカの建国理念を体現したこの憲法を廃絶するところから始めたい、と。こう考えているわけです。なんか言ってること、おかしいですね」

 

というあたりのシミュレーションを内閣官房の諸君はどれくらい細部にわたって行っているのであろうか。ちょっと知りたい。