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日本が活発なリーダーシップを発揮して戦時下性暴力をなくしていくことは、国際社会から歓迎されるだろうし、実際にいま大いに必要とされている。
しかし日本が、女性に対する過去の重大な暴力を否定しているあいだは、またその歴史について語る自国民たちを攻撃し抑圧しているあいだは、この主導的役割を果たせはしまい。
2014年10月19日の内田樹さんのテクスト「テッサ・モリス=スズキ教授の語る安倍政権と慰安婦問題」を紹介する。
どおぞ。
2014年10月18日 — アジア地域史研究で国際的に知られるオーストラリア国立大学のテッサ・モリス=スズキ教授(歴史学)が、10月10日、安倍政権の動向と今回の大学脅迫事件の関係を論じたうえで、日本が「慰安婦」問題に真っ向から取り組まない限り国際社会のリーダーにはなりえないとする記事を、オーストラリア放送協会ABCのサイトで発表しました。
参考までに以下に訳出します。誤訳がある可能性がありますので、引用される場合は必ず原文を参照してください。
大学人はどうかこのような海外の声を決して忘れず、連帯を求めながら勇気をもって学問の自由のために脅威と戦ってください。私たち市民有志はそうした大学人を強く支持することをあらためてここに表明します。
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http://www.abc.net.au/news/2014-10-10/morris-suzuki-the-ugly-face-of-japans-pro-women-policy/5801376
日本の「女性活躍推進」政策の醜悪な面
テッサ・モリス=スズキ
日本は戦時下の性暴力をなくすことにかけて国際社会を先導していきたいとしている。
それにも拘わらず安倍政権はいわゆる「慰安婦」の歴史的事実を強く否定しており、そのことについて敢えて語る人物を執拗に攻撃している。
9月25日、日本の安倍晋三首相は、第69回国連総会にて行った演説で、日本を女性の輝ける社会に変えると固く誓言し、戦時下の性暴力をなくすために国際社会をリードしていきたいと付言した。
これは安倍首相による「女性活躍推進」政策のうちのひとつに過ぎない。これに先立って、プムズィレ・ムランボ=ヌクカ国連ウィメン事務局長は、報道によれば、安倍首相が全閣僚19名のうち女性閣僚の数を2名から5名へと増やしたことによって「世界に手本を示した」と述べて、首相を称賛したという。
しかし世界のメディアの視線の届かないところで、日本では別の女性関連政策が同時に進められてきた。
9月5日、安倍内閣の菅義偉官房長官が、記者会見を開いて、そこでいわゆる「慰安婦」について日本政府の見解を明らかにした。それによれば、第2次世界大戦中、日本軍の慰安所へ集められた何万人もの女性たちのうち誰ひとりとして日本軍または日本警察によって強制的に徴集された者はいなかった、というのだ。
会見に居合わせた記者たちは、「慰安婦」として勤めさせられた(戦時下捕虜を含む)オランダ人女性たちについて質問を投げかけた。ある記者は、この問題に関してオランダ議会調査委員会によって1994年に念入りに作成された報告書をとりあげた。その報告書は、およそ65名の女性たちが日本軍または警察によって売春を強要されたことを明らかにしたものだった。
菅官房長官ははじめ質問に答えることを避けたが、やがて次のように述べた。
「日本政府の見解としては、(この問題に関する)政府の調査の結果、軍およびその関連機関の関与した強制連行があったことを証明する記述を見つけることはできなかった」
安倍首相とその支持者たちは、長い間、日本の近代史におけるこの闇に対する責任を極限まで小さくしようとしつづけてきた。そのために、日本およびその近隣諸地域や戦場で直接とらえられた女性たちと、あっせん業者によってだまされて軍へ引き渡された女性たちのあいだに、線を引こうとしてきた。後者の女性たちは、彼らがいつも言い張るところによれば、「強制連行」されたのではないというのだ。
そして今や安倍首相とその支持者たちは、強制連行に関する報告をすべて、一切の地域に関して、否定しているのだ。
つまり、彼らは、今や、第2次世界大戦中の日本の領土全体のうち他の地域でも女性の強制連行があったことを示す多数の証言といっしょに、1994年のオランダの報告書をも否定しているということになる。
安倍首相とその支持者たちがそのような否定を行う一方で、これまで「慰安婦」に関する歴史を伝えようとしてきた日本の記者、歴史学者、出版者その他のひとびとがいま右翼グループからの激しい攻撃にさらされている。
朝日新聞は、この問題に関して比較的バランスのとれた報道を行おうとしてきた機関であるが、競争関係にある右翼の報道機関や有力政治家たちによって激しく非難されてしまっている。
この攻撃の主なきっかけは、朝日新聞がおよそ25年前に行った誤報を最近認めたことだった。当時、朝日新聞は「慰安婦」の強制連行に関与したという元日本軍兵士の発言を報じたが、数年後この元兵士が公に発言を撤回したのだった。
当時、他の新聞各紙がその元兵士の証言に基づく内容の記事を掲載したにも拘わらず、またその証言が少なくともこの10年来「慰安婦」問題に関する論争において採用されていなかったにも拘わらず、朝日新聞はいま公開処刑の憂き目に会っており、その主筆を国会に証人喚問せよという脅迫じみた声が上がっている。
最近、安倍首相も菅官房長官もともに、「日本の国際的名誉を損なった」として朝日新聞を断罪した。
世論がこれに連動して朝日新聞に対する敵意を異常に高めるなか、かつて「慰安婦」問題に関する記事を執筆したことのある元朝日新聞記者を講師として雇っている日本の大学が、右翼グループから、メールや電話を通じた集中砲火を浴びており、その元記者の解雇を要求されている。このせいで、これまでに少なくともひとりの大学教員が突然の「早期退職」に至っている。
他にも、大学教員が自らの講義中に慰安婦の強制連行について触れた資料を用いたために有力なマスメディアから攻撃された事例がある。この問題の解説者たちや他の関連題目は、右翼の週刊誌によるいわれなき攻撃のターゲットにされてしまっている。大半の有力マスメディアが沈黙を強いられてしまっている。今もなお日本政府による強制連行否定を批判的にとりあげていたり、強制連行されたことを証言している元「慰安婦」の記事を掲載していたりするのは、せいぜい一、ニ社の勇気ある小規模な新聞だけだ。
日本が活発なリーダーシップを発揮して戦時下性暴力をなくしていくことは、国際社会から歓迎されるだろうし、実際にいま大いに必要とされている。
しかし日本が、女性に対する過去の重大な暴力を否定しているあいだは、またその歴史について語る自国民たちを攻撃し抑圧しているあいだは、この主導的役割を果たせはしまい。
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