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日本にはすばらしい文化がある、日本の映画もすばらしい、音楽も美術もすばらしいし、食文化もすばらしい。けれども、日本の政治には見るべきものが何もない。あなた方は実に多くのものを世界にもたらしたけれども、日本のこれまでの総理大臣の中で、世界がどうあるべきかについて何ごとかを語った人はいない。一人もいない。Don’t stand for anything 彼らは何一つ代表していない。いかなる大義も掲げたことがない。日本は政治的にはアメリカの属国(client state)であり、衛星国(satellite state)である
2014年11月26日の内田樹さんのテクスト「資本主義末期の国民国家のかたち」を紹介する。
どおぞ。
集団的自衛権もそうです。集団的自衛権というのは、何度も言っていますけれども、平たく言えば「他人の喧嘩を買う権利」のことです。少なくともこれまでの発動例を見る限りは、ハンガリー動乱、チェコスロバキア動乱、ベトナム戦争、アフガニスタン侵攻など、ソ連とアメリカという二大超大国が、自分の「シマ内」にある傀儡政権が反対勢力によって倒されそうになったときに、「てこ入れ」するために自軍を投入するときの法的根拠として使った事例しかない。
何で日本が集団的自衛権なんか行使したがるのかが、ですから僕にはさっぱりわからない。いったいどこに日本の「衛星国」や「従属国」があるのか。海外のどこかに日本の傀儡政権があるというのであれば、話はわかる。その親日政権が民主化運動で倒れかけている。しようがないから、ちょっと軍隊を出して反対勢力を武力で弾圧して、政権のてこ入れをしてこようというのであれば、ひどい話ではあるけれども、話の筋目は通っている。でも、日本にはそんな「シマうち」の国なんかありません。
結局、集団的自衛権の行使というのは、現実的にはアメリカが自分の「シマうち」を締めるときにその海外派兵に日本もくっついていって、アメリカの下請で軍事行動をとるというかたちしかありえない。アメリカの場合、自国の若者が中東や西アジアやアフリカで死ぬということにもう耐えられなくなっている。意味がわからないから。でも、海外の紛争には介入しなければならない。しかたがないから、何とかして「死者の外部化」をはかっている。無人飛行機を飛ばしたり、ミサイルを飛ばしたりしているというのは、基本的には生身の人間の血を流したくないということです。攻撃はしたいけれども、血は流したくない。だから、民間の警備会社への戦闘のアウトソーシングをしています。これはまさに「死者の外部化」に他なりません。たしかに、これによって戦死者は軽減した。でも、その代わり莫大な財政上の負荷が生じた。警備会社、要するに傭兵会社ですけれど、めちゃくちゃな値段を要求してきますから。アメリカは、その経済的な負担に耐えることができなくなってきている。
そこに日本が集団的自衛権の行使容認を閣議決定しましたと言ったら、アメリカ側からしてみると大歓迎なわけです。これまで民間の警備会社にアウトソーシングして、莫大な料金を請求されている仕事を、これから自衛隊が無料でやってくれるわけですから。願ってもない話なわけですよね。「やあ、ありがとう」と言う以外に言葉がない。
ただ、「やあ、ありがとう」とは言いながら、何で日本がこんなことをしてくれるのか、その動機についてはやっぱり理解不可能である。
アメリカが金を払って雇っている傭兵の代わりに無料の自衛隊員を使っていいですというオファーを日本政府はしてきているわけで、それがどうして日本の国益増大に資することになるのか、アメリカ人が考えてもわからない。
つまり、確かに日本政府がやっていることはアメリカにとってはありがたいことであり、アメリカの国益を増すことではあるんだけれども、それは少しも日本の国益を増すようには見えない。これから自衛隊が海外に出ていって、自衛隊員がそこで死傷する。あるいは、現地人を殺し、町を焼いたりして、結果的に日本そのものがテロリストの標的になるという大きなリスクを抱えることになるわけです。戦争にコミットして、結果的にテロの標的になることによって生じる「カウンターテロのコスト」は巨大な額にのぼります。今の日本はテロ対策のための社会的コストをほとんど負担していないで済ませている。それをいきなり全部かぶろうというわけですから、アメリカとしては「やあ、ありがとう」以外の言葉はないけれど、「君、何を考えてそんなことするんだ」という疑念は払拭できない。
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