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憲法と戦争 日本はどこに向かうのか 4 ☆ あさもりのりひこ No.333

アメリカの国益を正確に忖度できる能力だけが高く評価される。アメリカの意向を忖度できる人間の前にだけキャリアパスが広々と開けている。今の日本のキャリアパスというのは、もうそれしかないんです。アメリカに留学して、アメリカで学位を取り、アメリカの要路に友人知人がおり、アメリカの意向が知れる人間、そういう人間でないと、政治の世界でも、経済の世界でも、学術の世界でさえ、もう上層にはたどりつけない。

 

 

2015年7月13日の内田樹さんのテクスト「憲法と戦争 日本はどこに向かうのか」を紹介する。

どおぞ。

 

 

1972年の沖縄返還からすでに43年経ちました。敗戦後6年目にサンフランシスコ条約で主権回復、27年後に沖縄返還で国土回復。「対米自立」の成功体験はそこで終わりです。以後43年間、日本は対米従属だけを果たしているけれど、国家主権も回復されず、国土も還ってこない。

相変わらず外交・防衛での重要政策はすべてアメリカの許諾を得ないと実施できない。エネルギー政策でも食糧政策でも医療でも教育でも、ぜんぶそうです。これならアメリカが許してくれるだろうという見込みがある政策しか日本政府は採択しなくなった。

43年間まったくリターンがないまま、同一の国家戦略を維持している。そのことに対して「これはちょっとおかしいんじゃないか?」という声が出て来てよいはずですけれど、誰もそんなことは言わない。僕は、おかしいと思う。 

横田基地をこの間横を通りましたけれど、離着陸する飛行機もないし、フェンスの向こうには人影もない。でも、じゃあ横田基地を返しますという話にならない。東京上空に巨大な米軍専用の空域があって、そこは民間機が入っちゃいけないということになっている。不便だから使ってないなら返して下さいと日本政府が交渉したっていいでしょう。でも、そんな交渉をする気がない。

対米従属というのは、あくまで国土を回復し、主権を回復するための戦術的な迂回なのだという初発の動機を、日本人は見失ってしまった。対米従属が自己目的化してしまい、なんのために「こんなこと」をしているのかと自問することさえしなくなってしまった。

日本がアメリカの許諾抜きに重要な外交政策を決定したのは1972年の日中共同声明でした。それを実行した田中角栄に対して、当時のキッシンジャー国務長官は「絶対に許さない」と公言しました。その後、田中にどのようなペナルティが課されたかは史実が明らかにしています。

田中以後、アメリカの許諾を得ないで日本が独自外交を展開した事例は一つもありません。すべての重要政策はアメリカの指示に従うか、アメリカの許諾を得てから決定されている。アメリカの指示してくる政策はあくまでアメリカの国益を最大化するためのものですから、日本と利益相反するものもある。けれども、多くはそれなりに合理的なものだった。だから、言うことを聞いていれば、日々のルーティンはちゃんと回ってゆく。

そうやって対米従属に安住しているうちに、日本人は自力で「日本の国益を最大化するためには、どういう政策が好ましいのか?」という問いを発する習慣そのものを失ってしまった。どうもこれはアメリカがいやがりそうだと思うと、そんな政策は仔細に検討してみても、どこかの段階で「ダメだ」ということになるに決まっている。だったら、はじめからそんな政策について考えるだけ時間の無駄である。アメリカが必ず呑むはずの政策だけを選択的に吟味するという習慣が日本のエスタブリッシュメントに定着してしまった。

日本人はもう「衆知を集めて最適解を探す」という思考習慣を失ってしまった。アメリカの意向を忖度することに長けた人間たちだけが政治家も官僚もビジネスマンも学者もジャーナリストも指導層を独占するようになった。これがこの20年、30年の間に日本社会に起きた劇的な変化です。

沖縄のことは分かりませんけれども、少なくとも東京ではそうです。アメリカの国益を正確に忖度できる能力だけが高く評価される。アメリカの意向を忖度できる人間の前にだけキャリアパスが広々と開けている。今の日本のキャリアパスというのは、もうそれしかないんです。アメリカに留学して、アメリカで学位を取り、アメリカの要路に友人知人がおり、アメリカの意向が知れる人間、そういう人間でないと、政治の世界でも、経済の世界でも、学術の世界でさえ、もう上層にはたどりつけない。そういう仕組みになってしまった。