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憲法と戦争 日本はどこに向かうのか 7 ☆ あさもりのりひこ No.337

今の日本がアメリカの従属国で、主権国家ではないということは、安倍首相にも分かっている。でも、彼は主権がない理由は「戦争ができない」からだと考えている。それは違いますよね。主権国家じゃないのは端的にアメリカの属国だからですよ。だから、どうやってアメリカの属国から、日本の主権を回復していくのかと考えるべきなのに、彼はそういうふうには考えない。

 

 

2015年7月13日の内田樹さんのテクスト「憲法と戦争 日本はどこに向かうのか」を紹介する。

どおぞ。

 

 

安倍さん自身の脳内には政治的妄想としての「あるべき国家像」があると思います。それは「戦争ができる国」です。いつでも、誰とでも戦争ができる国になりたい、と。そう考えている。彼の場合は「国家主権の回復」というのは「戦争ができる国になる」ということと同義なのです。

そう考えると、彼の改憲に対する熱情が理解できます。彼はとにかく「戦争ができる国」になりたいのです。集団的自衛権行使の閣議決定も特定秘密保護法も安保法制も、目的は一つです。それは「戦争ができる国」になるということです。

今の日本がアメリカの従属国で、主権国家ではないということは、安倍首相にも分かっている。でも、彼は主権がない理由は「戦争ができない」からだと考えている。それは違いますよね。主権国家じゃないのは端的にアメリカの属国だからですよ。だから、どうやってアメリカの属国から、日本の主権を回復していくのかと考えるべきなのに、彼はそういうふうには考えない。日本がアメリカの属国だから主権がないという事実からは眼を反らす。日本が国際社会で侮られているのは「戦争ができない国」だからであり、それは平和憲法や日教組の偏向教育のせいだと思っている。国内的な要因で、左翼のせいで「戦争ができない国」にとどまっていると思っている。だから、国内的要因を除去して、何が何でも「戦争ができる国」になりたい。

安倍首相にとって幸運なことに、そこに安全保障環境の変化が起きた。アメリカの「撤収」です。チャンスがめぐってきた。アメリカは誰かに自分たちのやってきた「汚れ仕事」の肩代わりをしてもらいたがっている。中東に地上部隊を派遣して、治安維持や施設警備をする仕事を誰かに押しつけたい。この窮地に安倍首相は「自衛隊を出しましょう」と言い出した。アメリカ兵士の代わりに自衛隊員が死にます。その代償に「戦争ができる国」になる許可をくれ、と。アメリカもこれは断れる話ではありません。ただし、日本に軍事的フリーハンドを与える気はありません。100%アメリカの指揮下にある場合に限り軍事行動を許すというのがアメリカの出した条件です。つまり、「徹底的な対米従属を約束すれば、戦争をさせてやる」とアメリカは言ってきた。そして、安倍首相はそれを丸呑みした。 

一体彼は何と何を交換したつもりなんでしょう。戦後日本の国家戦略において、対米従属の代償は対米自立でした。でも、今度は違います。対米従属の見返りは「アメリカのために戦争ができる権利。アメリカのために自衛隊員が殺される権利」です。こんな倒錯的な取り引きが成り立つのは、安倍首相の頭の中では「戦争ができる国」になることが最終目標に設定されているからです。だから、その目標が実現されるなら、どんな交換条件にも応じるつもりでいる。

「戦争ができる国」というのは実際には国際政治の場面でどういうふうにふるまうのかを考えた上で選択された国家像ではありません。だって、日本はアメリカの指揮下でしか戦争をしないのですから、戦争が「外交の延長」になることはありえない。戦争を外交のカードに使うのはアメリカであって、日本には外交カードを切る権利はない。では、いったい「戦争ができる国」になることで安倍首相は何を実現したいのか?

さしあたりは「非民主的国家」の実現です。「戦争ができる国になって、アメリカのために自衛隊員が死ぬ」ことの代償として、安倍首相はアメリカから「日本が非民主的な国になる許可」を引き出すつもりでいる。

具体的には「東京裁判は間違っていた」と公言する権利、「ポツダム宣言は受け容れ難い」と公言する権利、「日本国憲法はアメリカの押しつけた醜悪な憲法だ」と公言する権利、「日本国民には民主制も市民的自由も要らない」と公言する権利、それと引き替えなら「自衛隊員を差し出す」つもりでいる。

安倍首相はある意味でアメリカの「足元」を見ているのです。アメリカは世界に「自由と民主主義の理想」を宣布したがる伝道的国家であるけれど、それと同時に「自分さえよければそれでいい」という利己主義的な国家でもある。今のアメリカは「自分さえよければそれでいい」という方向に、共和党的・モンロー主義的傾向に傾きつつある。ですから、日本がアメリカの統治理念を否定しようと、東京裁判史観を否定しようと、非民主的で強権的な国家システムを採用しようと、日本人がアメリカ人の代わりにアメリカのする戦争で死んでくれるという「実利」の前にはいやでも譲歩する。安倍首相はそう思っている。