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朝日新聞のロングインタビュー(前編) ☆ あさもりのりひこ No.377

現実には日本は重要政策についてはアメリカの許諾を得ることなしには何一つ自己決定できない。沖縄の米軍基地は返還されないし、地位協定は改定されないし、首都の上空には主権の及ばない横田空域が広がっています。

 

 

2017年5月6日の内田樹さんのテクスト「朝日新聞のロングインタビュー」を紹介する。

どおぞ。

 

 

朝日新聞の東北版にロングインタビューが掲載された。

そのロングヴァージョンを採録しておく。

 

施行70年を迎えた日本国憲法が岐路に立っている。「不戦」という歯止めを問い直す改憲の流れ。「共謀罪」という基本的人権を制限する可能性を持つ法律の整備。憲法をめぐる政治の動きと、私たちの暮らしの変化について、東北・山形にルーツを持つ思想家、内田樹さん(66)に聞いた。

ー朝日新聞の4月の世論調査でも、安倍政権は50%の支持率を維持しています。どうして、今回の共謀罪の制定などで基本的人権が制限される可能性がある有権者たちが、安倍政権を支持するのでしょうか。

 

戦後の日本の国家戦略は「対米従属を通じての対米自立」というものでした。敗戦国にはそれ以外に選択肢がなかったのです。アメリカへの徹底的な従属を通じて、同盟国として信頼を獲得し、段階的に国土を回復し、国家主権を回復してゆくという戦略は72年の沖縄施政権返還まではたしかに一定の成果をあげていました。けれども、それ以後、対米従属がアメリカから自立するための一時的、迂回的な手段であることを日本人は忘れてしまった。とりわけ高度成長期の経済的成功は日本人の自己評価を肥大させました。日本人は自分たちは「ふつうの主権国家」だと思い上がって、「対米自立=主権回復」という国家目標を忘れてしまったのです。今の日本は「対米従属を通じての対米従属」という不条理なループの中にはまり込んでいます。

 

ーでも、安倍政権は米国が制定を主導した現憲法の改正、自衛隊の海外派兵、さらには西洋で生まれた民主主義の根幹である基本的人権を制限する可能性のある共謀罪の導入など、米国の神経を逆なでするようなナショナリストとしての動きも見せています。

 

属国であることのフラストレーションをどこかで癒す必要があるからです。現実には日本は重要政策についてはアメリカの許諾を得ることなしには何一つ自己決定できない。沖縄の米軍基地は返還されないし、地位協定は改定されないし、首都の上空には主権の及ばない横田空域が広がっています。この屈辱感と不能感をどうやって癒すか。日本人が選んだのは「アメリカが怒らない範囲で、反米的にふるまう」というひねこびた解でした。それが安倍政権の極右政治路線であり、そこに相当数の日本人が共感している。

アメリカはつねに自国益を最大化するように行動します。日本がアメリカの世界戦略のすべてに賛同する「顎で使える同盟国」である限り、その国の統治理念がアメリカのそれと一致しようとしまいと、アメリカにとってはどうでもいいのです。これまで韓国でもフィリピンでもインドネシアでもベトナムでも、アメリカは非民主的で残酷な独裁政権を親米的である限り堂々と支援してきました。日本人もそれを熟知している。だから、徹底的に対米従属する限り、日本国内でアメリカの統治理念を否定しても、それは「アメリカを怒らせない」ということがわかっている。

安倍政権が進めている改憲も、基本的人権の否定も、安保法制による平和主義の否定も、共謀罪による市民的自由の制約も、それが「アメリカの統治理念を否定するもの」であるがゆえに選好されており、日本人の多くがそれに喝采を送っているのです。アメリカにとって日本は切り捨てるにはあまりに惜しい属国ですから、内治におけるアメリカ的価値観の否定を受容せざるを得ない。安倍首相の過剰な対米従属は、内治において「反米的」であることによって相殺されているのです。

 

ー共謀罪について、どう考えられますか。4月の朝日新聞の世論調査では、法案に「賛成」35%、「反対」33%と拮抗していました。国民は、「ひどいことは起こることはない」と思っているのでしょうか。

 

18世紀からの近代市民社会の歴史は、個人の権利を広く認め、国家の介入を制限する方向で進化してきました。近代市民社会が獲得したこの成果をいまの日本は自ら手放そうとしている。これは世界史上でも例外的な出来事です。捜査当局にこれほどの自由裁量権を与えることに市民が進んで同意するというのは論理的にはあり得ないことです。これも「属国であることを否認する」自己欺瞞の病態のひとつとしてなら理解できます。

 

アメリカに対して主権的にふるまうことができない政府が、憲法上の主権者である国民に対して抑圧的にふるまい、国民主権を否定することによって、日本が主権国家でないことのフラストレーションを解消しようとしているのだと僕は解釈しています。会社で上司にどなりつけられて、作り笑いしているサラリーマンが家に帰って妻や子を殴って自尊心を奪還しようとするのと同じ心理機制です。