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朝日新聞のロングインタビュー(後編) ☆ あさもりのりひこ No.379

かつて地方は自民党の金城湯池でしたけれど、急速な人口減・高齢化と経済活動の萎縮によって、もう守るだけの「うまみ」がなくなった。いまの自民党は国民政党ではなく、富裕層のための新国家主義政党です。経済成長のために無駄なものは次々切り捨てていく。地方はその「無駄なもの」の一つです。

 

 

2017年5月6日の内田樹さんのテクスト「朝日新聞のロングインタビュー」を紹介する。

どおぞ。

 

 

ー戦前の治安維持法のように、市民の個人的な思想まで対象となっていく可能性はありますか。

 

治安維持法の時代には特高や憲兵隊などの弾圧のための専門機関があり、背後には圧倒的な武力を持った軍隊がいました。いまの自衛隊や警察が、一般市民の思想統制や監視を本務とする秘密警察的な組織をすぐに持つようになるとは思いません。それよりもむしろ「隣人を密告するマインド」の養成を政府は進めるでしょう。

ゲシュタポでも、思想犯検挙の大半は隣人による密告によるものだったそうです。思想統制は中央集権的に行うとたいへんなコストがかかる。隣国の中国はネット上の反政府的書き込みを網羅的に監視していますが、その膨大なコストが国家財政を圧迫し始めている。それだけの監視コストを担う覚悟は今の政府にはないと思います。ですから、「市民が市民を監視し、市民が隣人を密告する」仕組みをなんとか作り出そうとするでしょう。でも、そう思い通りにはならないと思います。

 

ー施行70周年を迎えた日本国憲法のもとで成熟した市民は、それほど単純に共謀罪を受け入れることはないということですか。

 

市民の成熟もありますけれど、警察官たちも、市民を統制する思想警察化することには抵抗すると思います。今でもテレビでは相変わらず刑事ドラマ、医学ドラマ、学園ドラマが繰り返し放送されていますが、刑事ドラマの話はどれも同型的です。組織になじまない自立的なキャラクターと独特の正義感をもった主人公が、定型的な捜査に反抗して、難事件を解決するという話がほとんどです。戦時中の日本に「そんなドラマ」が存在したはずがない。この執拗な物語原型の反復には戦後日本人の警察に対する期待がこめられているのだと思います。そして、そのようなドラマを見て警察官を志望した若者たちもたくさんいるはずです。そう簡単に「いつか来た道」にはならないと信じています。

 

ー内田さんのルーツは東北・山形にあります。安倍政権にとって、「東北」とはどう位置づけされているのでしょうか。

 

復興大臣が東日本大震災について、「東北でよかった」と発言したことでもわかるように、公言されないけれど、「地方切り捨て」は政権の既定方針です。東日本大震災のあとの復興工事、原発事故処理、除染、住民の帰還政策、どれを見ても政府には国民的急務であるという真剣さが見られません。

かつて地方は自民党の金城湯池でしたけれど、急速な人口減・高齢化と経済活動の萎縮によって、もう守るだけの「うまみ」がなくなった。いまの自民党は国民政党ではなく、富裕層のための新国家主義政党です。経済成長のために無駄なものは次々切り捨てていく。地方はその「無駄なもの」の一つです。

 

ー具体的にどんな動きが出てくるのでしょうか。

 

国民資源の一極化です。「コンパクトシティー」が適例ですけれど、地方に中核都市を作り、郊外の住民をそこに集住させ、医療、教育、消費活動をそこに集中させる。里山の住民たちを「快適な暮らしが欲しければ、都市部へ移住しなさい」というかたちで誘導して、里山を実質的に無人化してゆく。

すでに各地で鉄道の廃線が進んでいますけれど、「費用対効果が悪い」という理由で交通や通信や上下水道やライフラインなどのインフラを撤去することに市民が同意すれば、いずれ学校や病院や警察、防災などの基本的サービスが受けられない地域が広がります。そういう地域は事実上「居住不能」になる。

そのようにして「居住不能地区」を全国に拡大して、「住めるところ」だけに資源を集中すれば、たしかに行政コストは劇的に軽減される。いずれ地方自治体の統廃合が行われ、地方選出の国会議員定数も減らされ、地方の声は国政に反映しないという時代になるでしょう。

2100年の人口は中位推計で5千万人です。その5千万人も半数近くが高齢者ですから、人口を都市に集めて機能的、効率的に税金を使うしかないという説明には反論がむずかしい。そのためには人口減社会においてどういう社会を構築するのかについての新しいヴィジョンを提示する必要があります。

 

ー東北の「生きる道」は、どこにありますか。

 

東北の人々は、東日本大震災と原発事故で政府の無策とシステムの脆弱さを思い知ったはずです。国をあてにせず、自力で生き延びる方法を模索しているだろうと思います。

 

僕が最近注目しているのは、若者たちの地方移住傾向です。東北にはまだ山河という豊かな国民資源があります。帰農する若者たちと豊かな山河の出会いのうちに、経済成長至上主義者たちが考えている「地方創生」とは別の地方の未来が開けるのではないかと僕は思っています。