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私はメディアと政府のこの無関心にむしろ興味をそそられる。過疎化・高齢化による「地方消滅」という危機的事態の切迫を考えると、若者の地方移住をどうやって支援するかということは国家的な急務だと私には思われるからである。だが、そのような熱意を政府やメディアから感じとることはない。なぜか。
2017年7月31日の内田樹さんのテクスト「地方移住の意味するもの」を紹介する。
どおぞ。
先週の『サンデー毎日』に少し長めのものを寄稿した。
もう次の号が出る頃だからネットに再録。
先日、奈良の山奥の集落で、都会から移住してきた若者たちと話し合う機会があった。
都市住民の地方移住は3・11以来途絶えることなく続いているが、メディアはこれを特に重要なことだとは考えていないらしく、ほとんど報道されることがない。総務省も国交省も農水省も、この動きには特段の関心を示していない。そもそも今のところ、地方移住については公式の統計さえ存在しない。2015年末に毎日新聞が明治大学の研究室と共同調査を行い、2014年度に地方自治体の移住支援策を利用するなどして地方に移住した人が1万1735人であることを報じた。それによると、09年度から5年間で地方移住者は4倍以上に増えたという。ただし、これは自治体の移住支援を受けた移住者だけの数であり、行政の支援を受けずに移住した人たちがおり、アンケート未回答の自治体もあるので、移住の実態は明らかにされないままである。
私はメディアと政府のこの無関心にむしろ興味をそそられる。過疎化・高齢化による「地方消滅」という危機的事態の切迫を考えると、若者の地方移住をどうやって支援するかということは国家的な急務だと私には思われるからである。だが、そのような熱意を政府やメディアから感じとることはない。なぜか。
そのときのトークセッションのテーマは「10年後の地方移住」というものであった。
集まってきた人たち(若者ばかりではない)はそれぞれの仕方で地方移住を果たした人たちである。住民たちと親しくなり、高齢の農業従事者からは「地域の農業文化を絶やす事なく継承して欲しい」と頼られるようになり、それなりに質の高い生活を営めるようになった。あと数年は「こんな感じ」で暮らしていけるだろう。けれども、10年後にはどうなっているのだろう。今のような生活がこの先10年後も20年後も維持できるのか。それについて意見を聴きたいと言われた。
私の見通しは明るいものではない。だから、こんなふうな話をした。