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北星学園での講演(第2回) ☆ あさもりのりひこ No.421

「経済成長はもうしないのだから、経済成長しないことを前提にした経済政策を採用しなければならない」

「各国の指導者はもう『経済成長という非現実的な夢』を語るのを止めた方がいい」

 

 

2017年8月31日の内田樹さんのテクスト「北星学園での講演」(第2回)をご紹介する。

どおぞ。

 

 

今の日本は非常に停滞しています。何か、頭がどよんとぼやけていて、シャープなことを誰も言わなくなったという感じがありますが、それも当たり前です。前代未聞の、五里霧中の、予測ができない状態に入ったわけですから。こういう状況において明晰な言語があるとすれば、それは「先が見えない」ということなのですけれども、そう言えばいいのに、そう言わない。政治家も官僚も学者たちも、人口増と経済成長が自明である社会をモデルにしてしか考えることができないので、その前提そのものが揺らぐと何も言うことがなくなってしまう。でも、「これまで話の前提にしていた条件が変わってしまったので、この先どうなるか見当もつきません」と正直にカミングアウトすることができない。

これまでの経済成長モデルはもう無効になっています。でも、それが言えない。それだけは言わない約束になっているので、知っているけれど、言わない。でも、先月、『フォーリンアフェアーズ・レポート』というアメリカの外交専門誌の日本語版がありますけれど、ここに「経済成長はもうしないのだから、経済成長しないことを前提にした経済政策を採用しなければならない」ということを言うエコノミストが出て来ました。これはモルガン・スタンレーのグローバル・ストラテジストという肩書の人でした。投資銀行の戦略を考えるエコノミストが「各国の指導者はもう『経済成長という非現実的な夢』を語るのを止めた方がいい」と書いているのです。経済目標を下方修正して、現実に合った経済政策を採るべきなのだが、そのことを理解している指導者がほとんどいない、と。

生き馬の目を抜くウォール街の投資銀行のエコノミストが「もう経済成長はしない。いいかげんに現実を直視しろ」と言っているのに、相も変わらず、世界の政治家たちはその現実から目をそらしています。そういう指導者のいる国では、メディアも一緒に遅れていて、そういうところでは世界で今何が起きているとかということを正確に報道していない。報道して分析して対策を提案できるような力がメディアにない。

だから、日本人は今日本がどういう状況にあるのか「よく知らない」のです。これが僕はきわめて危機的なことだと思います。病気の人間が「ああ、具合が悪いなあ。病気かな」と思えば、寝たり、薬を飲んだり、医者に行ったりするけれど、病気なのに病気であることに気がつかないで、生活を変えずにふだん通りに暮らしていれば、そのうち症状が悪化して、やがて死んでしまう。今の日本はかなり重篤な病気なのに病識がない病人に似ています。「病識」を伝えるのはメディアですが、メディアがその役割を果たしていない。

経済のことはデータをごまかしたり、解釈をねじまげたりすれば、「順調に推移している」といいくるめることは可能ですけれど、人口減は否定することができません。あと83年の間に7000万人ほど人口が減るのです。年間90万人。鳥取県の人口が60万ですから、鳥取県1.5個分の人口が毎年減ってゆく。

 

それが、いったいどういう社会的影響を及ぼすのかを予測し、そのネガティヴな影響をどうやって緩和できるかについて衆知を集めて議論すること、それが最優先になされるべきことです。でも、その避けがたい現実を直視し、衝撃をどう緩和するかについて現実的な提案をする人も、どこにも見当たらない。政治家にも官僚にもビジネスマンにもジャーナリストにも、当然大学人にもいない。