〒634-0804
奈良県橿原市内膳町1-1-19
セレーノビル2階
なら法律事務所
近鉄 大和八木駅 から
徒歩3分
☎ 0744-20-2335
業務時間
【平日】8:50~19:00
【土曜】9:00~12:00
この人たちは基本的に株式会社をモデルに大学経営を考えていますから、「右肩上がり」を前提にものを考えます。マーケットが縮むから、生産数を減らそうなんてことは考えません。いや、どうやってマーケットを拡大したらいいのか、どうやって顧客をこちらに向かせたらいいのか、どういう教育プログラムを整備すれば消費者である高校生やその保護者に選好されるか、そういう「集客戦略」を語る。
2017年8月31日の内田樹さんのテクスト「北星学園での講演」を紹介する。
どおぞ。
それまでは18歳人口が増えて来るのに合わせて大学に臨時定員増を認めていました。大学に進学希望する子どもの数が増えているのだから、できるだけ多く受け入れてあげましょうというのはロジカルです。でも、それなら18歳人口が減ってきたら、大学の定員を減らして、受け入れ数を調整しましょうというのがロジカルなのですけれど、それができなかった。
僕はその当時文科省の私学教育課長の方と対談したことがあります。その時に聞きました。「18歳人口が増えるからという理由で定員増したわけですから、人口減になったら定員減を大学に求めるべきでしょう。18歳人口が前年比95%になるなら、全大学に受け入れ数を前年比95%にしなさいと行政指導できないんですか? そうすれば、どの大学も志願者確保のために駆けずり回らなくてもいいし、教育水準も維持できるし、学校経営の危機もいきなりは来ないから、経営の難しい大学はゆっくりとダウンサイジングしながら軟着陸の手立てを考えることができるんじゃないですか」と。でも、一笑に付されました。文科省にそんな力ないですよって。どの大学が進んで定員減なんか言い出すものですか、と。
確かにその通りでした。むしろ、大学の経営陣は18歳人口が減り出すと、いきなりビジネス・マインデッドになってゆきました。その頃からどの大学でも財務を担当してきたビジネスマン的な人たちが発言権を持つようになりました。彼らは研究者でも教育者でもありません。この人たちは基本的に株式会社をモデルに大学経営を考えていますから、「右肩上がり」を前提にものを考えます。マーケットが縮むから、生産数を減らそうなんてことは考えません。いや、どうやってマーケットを拡大したらいいのか、どうやって顧客をこちらに向かせたらいいのか、どういう教育プログラムを整備すれば消費者である高校生やその保護者に選好されるか、そういう「集客戦略」を語る。「危機の時こそ一気にシェアを取る絶好のビジネスチャンスなんですよ」というようなことを言う人相手に「じわじわ定員減らしましょう」というような後ろ向きの提案をしても一顧だにされない。
文科省は、確かに学校教育を司る省庁として当然ですけれど、国民の就学機会を増やしていく、教育機会を充実していくということに関しては、明確な使命感も持っていたし、理念もあった。けれども、縮めて行くということに関しては何のプリンシプルも持っていなかった。増やすノウハウはあったけれど、減らすノウハウはなかった。だから、「マーケットに丸投げする」という無原則的な対応をとったのです。「マーケットは間違えない」からという理屈で。このとき日本の教育行政に初めて市場原理が本格的に導入されたわけです。どの教育機関が生き残り、どこが退場するかはマーケットが決定する、と。他の商品と同じです。商品をマーケットに投じる。消費者がいくつかの競合商品の中からあるものを選択する。選択された商品は生き残る。選択されなかった商品は不良在庫になって、やがて会社は倒産する。それと同じことを大学にも教育機関にも適用したらいいじゃないか、と。それ以外に過剰に存在する教育機関を淘汰する方法がない、と。そういうことで90年代はじめに学校教育の適否はマーケットが決定するということについての国民的合意が形成されたのです。