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尖閣インシデント(前編) ☆ あさもりのりひこ No.501

予測の適否についてはいろいろ異論もあるだろうけれど、こういう予測をして、それを語ることができる知的な環境がアメリカにはあり、日本にはないということは重く受け止めなければならない。

 

 

2017年12月20日の内田樹さんのテクスト「尖閣インシデント」(前編)をご紹介する。

どおぞ。

 

 

兪先生から「フォーリン・ポリシー」のコピーを昨日頂いた。記事は2016年1月15日に掲載されたもので、もう2年近く前のものだが、尖閣列島の領有をめぐって日本と中国が戦闘状態に入った場合のアメリカの行動についてのシミュレーションの報告である。

「フォーリン・ポリシー」の二人のレポーターが戦争ゲームの専門家のところで「尖閣インシデント」という戦争ゲームをする話である。

「日本海軍」(Japanese navy)とか「嘉手納基地が跡形もなく吹き飛ぶ」とか「日本の乗組員が500人死ぬ」とか、われわれからすると「ずいぶん無神経な言葉づかい」と思える表現が散見されるが、ラングレーやホワイトハウスのアメリカの専門家たちはたぶんこういう言葉づかいとこういうロジックで外交的選択肢について論じているのだろうということを知る上ではたいへん裨益するところの大きな資料である。

問題はこういう「想像力の使い方」を必要なものだと思う思考の習慣が日本にはないということである。「そして、そのとき日本経済の息の根が止まる」というような話を「よそ」で勝手にされていて、何とも思わないのだろうか。

予測の適否についてはいろいろ異論もあるだろうけれど、こういう予測をして、それを語ることができる知的な環境がアメリカにはあり、日本にはないということは重く受け止めなければならない。

 

記事はここから↓

Foreign Policyはいかにして中国との戦争に踏み込み、そして敗北したか

By Dan de Luce, Keith Johonson

Foreign Policy 15 Jan.2016

日本と中国を隔てる海域に夜明けが訪れる。一群の日本のはぐれウルトラナショナリストたちが「魚釣島」と呼ばれる不毛の小島に上陸する。ここは尖閣諸島あるいは中国では釣魚諸島と呼ばれている無人の、居住することのできない岩のかたまりのうち最大のものである。しかし、この島々はひさしく日本と中国の間の領有権をめぐる紛争地として知られている。

活動家たちは島に日本の国旗を掲げ、この地が日本の不可譲の領土であると宣言する。彼らの様子は撮影され、Youtubeに上げられた映像は中国海軍を刺激して、中国人を諸島の実効支配に駆り立てた。

虚を突かれた日本政府のリアクションは遅かった。最終的にはウルトラナショナリストと彼らの行為について日本政府は責任がないと言明した。しかし、それ以前に中国はこの行為を敵対的なものとみなし、武装した海上保安艦と海軍の艦船を尖閣諸島周辺に配備した。中国の海兵隊は14名の活動家を逮捕し、司法当局へ引き渡すと宣言した。

翌日、F-15の飛行隊に護衛された日本の自衛艦が海域に派遣された。中国は引き続き艦船を尖閣周辺に配備し、そこからの撤収を拒絶した。両国の艦船が衝突するコースに航路を向けた時点で、日本政府は1951年に締結された日米安保条約の発動をワシントンに知らせた。ホワイトハウスに決断の時が来た。

幸いなことにこのシナリオはホワイトハウスの中ではなく、ヴァージニア州アーリントンのシンクタンク、ランド・コーポレーションのオフィスで演じられたものである。Foreign Policy はランドの戦争ゲームの専門家であるDavid Shalpakに依頼して、Foreign Policy の二人のレポーター(Dan De Luce, Keith Johnson)が東シナ海でのシミュレートされた紛争を経験することになった。

Shalpakは過去30年にわたって、軍人とワシントンの外交官のために、地図とデータファイルを使った精密な戦争ゲームの構成を行ってきた人物である。われわれが経験したのはフォーマルなものよりずっと短いヴァージョンであり、政府の役人もテーブルの上に広げた地図もなしで、われわれは三人だけで、ペンタゴンから数ブロック離れたオフィスで、会議用テーブルを囲んで座り、仮説的な危機について徹底的に論じたのである。

誤解しないで欲しいが、われわれは戦争マニアではない。われわれが戦争ゲームを始めたのは、そこからの出口を探すためである。この戦争ゲームのさまざまな段階で、われわれはあるときは中国の役をやり、あるときは米国の役をやったけれど、いずれの場合も、われわれはもっとも侵略性の少ないオプションを選び出し、戦闘を抑制しようと試みた。しかし、Shalpakが警告したように、出来事はたちまちコントロールを失い、われわれは日中両国のナショナリスト的感情に煽り立てられて、悪夢のような戦争のエスカレートのうちに巻き込まれていったのである。

ここに示されたシナリオはわれわれが意図的に作り出したものではない。現に、今週も日本政府は中国に対して中国海軍艦船が尖閣近海に接近し、近くを航行するのであれば、その艦船を退去させるために警備艇を出すだろうと告知し、中国もまたこれに対して厳しい警告を以て応じ、日本がこのような挑発的な行動を取るならば、日本は「そこで生じるすべての出来事について責任をとらねばならない」と述べていた。これは現実世界で起きている出来事である。Shalpakが設計した人工的な世界の中ではこういった修辞的なやりとりは戦闘によって置き換えられる。以下はそれから後に起きたことである。われわれは戦争を望んだわけではないし、戦うことを求めたわけでもない。だが、ゲームはきわめて悲惨なかたちで終了することになった。

尖閣インシデント 第二日

われわれはまず「ブルーチーム」つまりアメリカとしてゲームをプレイした。アメリカは締結した条約を守ると言う点では人後に落ちない国である。だから、日本やアジアだけではなく、ロシア、イラン、NATO、サウジアラビア、イスラエル、その他の国々もまたアメリカがその緊密でかつ古い同盟国からの助力要請にどう対応するかを注視している。

しかし、同盟国との条約も大切だが、そのために無価値な岩礁をめぐってもう一つの世界大国である中国を相手に戦争を始めるというのはあってはならない選択である。

というわけで、われわれは日本の領土を米国の海空軍で守ることを提案しつつ、それと同時に中国軍を相手にいかなる攻撃的行動も取らないというむずかしい道を選んだ。

われわれはまず空母ジョージ・ワシントンを横須賀の母港から出港させ、西太平洋を遊弋させた。それは必要になったらいつでも空母が使える状態にしておくためであるし、同時に中国軍からの攻撃の可能性がある以上、ドックに繋留しておくわけにはゆかなかったからである。中国軍はすでに「空母キラー」と呼ばれる大型軍艦破壊用のミサイルを開発している。

一方で、カリフォルニアの第三艦隊をいかなる偶発的事態にも対応できるように北部中央太平洋に向けて出港させた。同時に、米国の攻撃用潜水艦を係争地の周辺海域に展開し、必要があれば同盟国を支援する体制にあることを中国に対して告知した。

その後、われわれはもう一つの大きな決断に直面することになった。日本政府が尖閣周辺の部隊を掩護するために米駆逐艦の派遣を望んだからである。日本政府は日本領土の防衛上のギャップを埋めるために米国の駆逐艦を日本海に派遣することを要請してきた。事態が窮迫した場合に、この駆逐艦は危険にさらされることになる。そのリスクを知りながら、われわれは日本の要請に同意することになった。さしあたり、われわれは日本領土を攻撃から守るための支援を行うことがアメリカの責務であるという立場を守ったのである。