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スポーツにおける許容範囲について ☆ あさもりのりひこ No.820

スポーツにおけるマネジメント(目標設定、資源活用、リスク管理など)について考えてみる。

 

1 WBSS(ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ)バンタム級決勝

 2019年11月7日、WBA・IBF世界バンタム級王者井上尚弥とWBA世界バンタム級スーパー王者ノニト・ドネアが激突した。

 井上もドネアも一発で相手をKOできる強打の持ち主である。

 

2ラウンド、ドネアの得意の左フックが井上の右顔面を捉える。

 このとき、井上は、右目の眼窩底を骨折していた。

 井上は、右目の視界が二重に見えるので、これはいつもと違うと判断して、無理にKOを狙わず、ポイントを獲って判定で勝つ作戦に変更した。

 

 11ラウンド、井上の左フックがドネアのボディを捉える。

 ドネアは、フットワークでリングを半周したあと、自ら右膝を着いてダウンした。

 このとき、ドネアは、無理に立ったまま戦い続けると倒されると判断したそうだ。

 

 井上は、無類の強打を誇るが、目の状態が悪くなったので、無理にKOを狙うと危険だと冷静に判断して、作戦を変更することができた。

 一方、ボディにフックをもらったドネアは、このまま戦い続けると危険だと判断して、自ら膝をついて(ダウンして)身体を休めて回復する時間を稼いだ。

 

 ふたりとも、冷静に状況を判断して、最適の戦法を選択することができる「賢さ」を兼ね備えている。

 結局、判定で井上が勝利を得たが、見応えのある熱戦であった。

 

2 東京マラソン2020

2020年3月1日、東京マラソンで、大迫傑が2時間5分29秒の日本新記録を樹立した。

レース後のインタビューで、先頭集団との距離が開いたときの気持ちについて聞かれて、大迫は、無理に追うとキャパを超えるので、と答えた。

自分自身の能力の許容範囲(capacity)を超えるような走り方はしなかった、という意味である。

 

2019年9月のMGCでは、大迫は、先頭集団の前の方で、先頭集団の動きに合わせて走り、脚を使いすぎて、最後のスピードが鈍り、競り負けて3位に終わった。

東京マラソンでは、大迫は、2時間5分50秒という自ら保持する日本記録を切るペースを終始守って走った。

先頭集団には、井上大仁がいて、30キロまでは、2時間4分台のペースで快調に飛ばしていた。

 

大迫は、井上との差が開いたときには「もうだめかな」と思った瞬間もあったという。

それでも、何があって絶対あきらめない強靱な精神がすばらしい。

井上が30キロを過ぎてから徐々にペースダウンしたのに対して、大迫は30キロを過ぎてから徐々にペースアップした。

 

結局、大迫は、井上を抜き去り、日本新記録を樹立して見せた。

井上との差が開いても慌てないで、自分の力を信じて、自分のペースを守った大迫の胆力がすごい。

井上は、30キロを過ぎてから失速して敗れた。

しかし、1キロ3分を切るペースで記録に挑んだ井上の勇気に喝采を贈りたい。

 

3 名古屋ウィメンズマラソン

 2020年3月8日、名古屋ウィメンズマラソンで、一山麻緒が2時間20分29秒で優勝した。

 この走りで、一山は8月に札幌で行われるマラソンの出場権を得た。

 

 30キロまでペースメーカーが着いて、目標タイムである2時間21分47秒を切るペースを刻んでいた。

 先頭集団のランナーがひとり、またひとりと遅れていく中で、一山は、先頭集団の前の位置を保っていた。

 

 30キロでペースメーカーが外れると、一山はペースを上げて、集団から抜け出した。

 2時間21分47秒を切るためにもペースアップは必要だった。

 しかし、何よりも実力が備わっていないとペースは上げられない。

 一山は、30キロを過ぎてからペースを上げる練習を繰り返していたという。

 練習は裏切らない。

 

 肘を引き上げない独特のフォームで走る安藤友香は、先頭集団について行けず、ズルズルと後退していった。

 しかし、安藤は、最後まで諦めないで、盛り返して2位に食い込んだ。

 この粘りは素晴らしかった。

 

 

 井上尚弥、大迫傑、一山麻緒、いずれも自分の能力の許容範囲を冷静に判断して、最適最良の選択肢を選んで、結果を出したと言える。