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内田樹さんの「『山本太郎から見える日本』から」(後編) ☆ あさもりのりひこ No.857

いくら記事を書いても、ニュース映像を作っても、上が「これは使えない」と言ってボツにするんだそうです。山本太郎だけじゃなく、辺野古もそうだと言ってました。現場は必死でニュースを取材しているんだけれど、上が抑えている。

 

 

2020年4月10日の内田樹さんの論考「『山本太郎から見える日本』から」(後編)をご紹介する。

どおぞ。

 

 

――彼のことを極右と呼ぶ人もいれば極左と呼ぶ人もいて、不思議なグラデイションのなかにいる印象があります。

 

内田 古典的な右、左というカテゴリには収まらないと思います。

 

――それが、彼がポピュリズムと言われるゆえんでしょうか?

 

内田 ポピュリズムというのは明確な政治イデオロギーですから、違うと思います。彼はイデオロギー先導じゃないから。それよりもプラグマティズム、現実主義ということなんじゃないかな。目の前の政治的な問題について、解として選択肢がいくつかあるなら、どれが一番国益に資するのか、どれが一番国民生活にとってプラスになるのか、どれが一番行政コストがかからないか・・・という具体的な「ものさし」で政策を吟味していると思います。

 今は30年、50年というスパンで長期的な計画を持っている政党なんて世界じゅうどこにもないと思いますよ。どこも目先の政治的な難点をどう解決するかということに懸命で。アメリカもそうだし、イギリスもそうだし、EUもそうだし、中国、韓国もそうだし。そういう先の見えない状況で右だ左だと言っても仕方がないという気がするんですよ。

 とくに今アメリカやヨーロッパでホット・イシューといえば現代貨幣理論(MMT)ですね。このアイディアに一番最初に反応した日本の政治家は山本太郎だったでしょ。こういうのにはほんとうは右も左もない。でも、既成政党は、現代貨幣理論は右派的なのか左派的なのかという党派的見極めがつかないので、「判断保留」している。山本太郎はぱっと頭を切り替えた。そういうことができるのが最大のアドヴァンテージなんじゃないかな。

 

──山本太郎の起こしているムーヴメントは、たとえばスペインのポデモスや、アメリカのバーニー・サンダース、オカシオ゠コルテスなどが巻き起こしているオルタナティヴな運動とリンクしていると考えていいでしょうか?

 

内田 リンクしていると思います。ただそれは、よそでこういう実践があったから、それを模倣しようということではないと思います。世界同時多発的に起きるんです、こういうものは。いま世界のどこも反民主主義的で、強権的な政治家が成功しています。アメリカのトランプも、ロシアのプーチンも、中国の習近平も、トルコのエルドアンも、フィリピンのドゥテルテも。非民主的な政体と市場経済が結びついた「政治的資本主義」が成功している。

 中国がその典型ですけれど、独裁的な政府が、どのプロジェクトにどんなリソースを集中すべきか一元的に決定できる。民間企業も軍部も大学も、党中央の命令には服さなければいけない。巨視的なプランを手際よく実行するためには、こちらの方が圧倒的に効率がよい。民主国家では、民間企業や大学に対して、政府のプロジェクトに全面的に協力しろというようなことは要求できませんから。非民主的な国なら、政府のアジェンダに反対する人たちは強権的に黙らせられるし、人権も制約できるし、言論の自由も抑え込める。だから、短期的な成功を目指すなら「中国モデル」は魅力的です。日本の安倍政権も、無自覚ですけれど、中国やシンガポールのような強権政治にあこがれている。だから、国内的にはそれに対するアンチが出て来る。日本の場合は、それが山本太郎だったということなんじゃないですか。

 

■検閲はびこる大手メディア

 

──民放や全国紙などの大手メディアが彼をとりあげないのはなぜなのでしょう?

 

内田 参院選が終わった直後、ある大手紙が僕のところに取材にきて、れいわ新選組の躍進について意見を聞きたいと言ってきた。選挙期間中にれいわ新選組についてまったく報道しなかったメディアが今ごろやってきて何を言うのかと文句を言ったんです。あれは「事件」でしょう! 短期間で立候補者を集めて、一人で4億円以上の資金をクラウドファンディングで集めたわけで、それって「事件」じゃないですか。「ニュース」じゃないですか。それを政治的中立性がどうたらと言って報道しなかった。それはジャーナリストとして自殺行為じゃないかと言ったんです。そしたら、その記者が言うのは、実はずっと山本太郎のことは取材していたんだそうです。専属チームまで作って。選挙活動の最初から映像や音声を撮っていたので、素材は山のようにあった。でも、使ってもらえないんだ、と。いくら記事を書いても、ニュース映像を作っても、上が「これは使えない」と言ってボツにするんだそうです。山本太郎だけじゃなく、辺野古もそうだと言ってました。現場は必死でニュースを取材しているんだけれど、上が抑えている。

 

──検閲するということは、それを脅威だと思っているということですよね。

 

内田 そうですね。そのまま放送されたり、記事にされると、政権に大きなダメージを与えるということがわかっているから抑え込んでいるんでしょう。桜を見る会もそうです。関係者を取材して証言を取れば、公選法違反で首相を追い込めるんだけれど、政権維持のために、メディアの上層部、政権の連中と一緒に寿司を食ったりしているような連中が隠蔽に加担している。

 

──われわれはネットや『週刊金曜日』などの小さなメディアのおかげで山本太郎の活動を知ることができているわけですが、他方で地方の年輩の方などは、情報源がテレビくらいしかなかったりもしますよね。

 

 

内田 テレビと讀賣新聞産経新聞しか読まない人たちとネットで情報を取っている人たちとのあいだに情報格差が生まれています。世界の見え方がまるで違うと思う。テレビがもう少し現実をありのままに映し出してくれたら、政治は一変すると思いますけどね。テレビはそのラストチャンスを失いつつあると思う。もう知的な人は誰もテレビ見なくなっている。