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内田樹さんの「維新についてのアンケート」(後編) ☆ あさもりのりひこ No.865

このパンデミックで世界経済は数年では立ち直れないくらいのダメージを受けます。かなりの国が定常経済ないしマイナス成長のフェーズに入る。そういう世界的な停滞が予測される時期に、万博やIRのような「祝祭的イベント」で集客して経済浮揚効果をねらうのはまったく不適切だと思います。

 お祭り騒ぎをするだけの経済的余力があるなら、まずコロナ禍で痛めつけられた大阪の住民たちのための医療、福祉、教育などの公共的なセクターに優先的に予算を分配すべきだと思います。

 

 

2020年4月18日の内田樹さんの論考「維新についてのアンケート」(後編)をご紹介する。

どおぞ。

 

 

Q2:私たちの仮説は、維新とは自民党から派生した存在であり、自民党的な選挙手法(中選挙区で党内の候補者同士が競い合う)という足腰の強さがあったのではないかということです。とくに、橋下氏が去ったことで自民党的なものへの回帰が進んだ面もあるのではないかと考えています。このような仮説は成り立つでしょうか。

 

 僕はそうは考えません。もともと自民党の中には福田派的な流れと田中派的な流れの二大潮流がありました。1970年から87年まで続いた「角福戦争」と呼ばれた自民党の派閥抗争はこの二派閥の戦いですが、日本近代政治史において「戦争」とまで呼ばれたような党内闘争は後にも先にもこれしかありません。この二つの政治潮流がいかに「氷炭相容れざるもの」であったかはその一事から知れると思います。おおざっぱに言うと、福田派が都市型・新自由主義的・リバタリアン的で、越山会が田園型・農本主義的・コミュニタリアン的です。この二つのまったく肌合いの違う派閥のきびしい拮抗関係からエネルギーを備給されていたのが高度成長期からバブル期にかけての自民党でした。

 しかし、田中派はのちに「分党」して、最終的に民主党に流れ込むことになりました。乱暴な言い方をすれば、民主党は「自民党田中派」が独立した作った政党です。「竹下派七奉行」のうち4人(羽田孜、奥田敬和、渡部恒三、小沢一郎)は民主党の結党に参加しましたし、鳩山由紀夫も岡田克也も自民党田中派から初出馬したのでした。

 つまり、今の自民党はかつての自民党から「田中派的なもの」を抜き去った政党だということです。国民生活を底上げしてゆく、弱者に配慮する、中産階級を厚みのあるものにして階層格差をなくすという志向が乏しいのはそのせいです。だからもし、いま「自民党的なもの」と言われたのが、55年体制の自民党のような「国民政党的性格」のことを指すのであれば、維新がこれからかつての「自民党的なもの」へ回帰することがあるという見通しに僕は与しません。維新は清和会をさらに社会ダーウィニズム的に純化した政党ですから。

 

Q3:もう一つの私たちの仮説は、東京の政権党とは異なる「大阪の政党」を、大阪の有権者が求めていたのではないか、そこに維新という存在がうまくマッチしたのではないかということです。東京への対抗心と言ってもいいかもしれません。維新が大阪で非常に高い支持を誇る一方、他の地域では支持の広がりを欠くこともそう考える一因です。大阪の有権者にそのような気質はあるでしょうか。

 

 それはQ1で答えた通りです。大阪的リバタリアニズムには「反公共」「反東京」「反権力」「反良識」など、いろいろな「反」がくっつきやすいんです。

 

Q4:ただ、先の質問とやや矛盾しますが、今の大阪の行政運営、政治のありようが、現政権と非常に近い印象を抱かせるのも確かです。それは、トップダウン型の政策決定の重視であり、維新出身の知事・市長による「政治判断」の強調です。事実、安倍政権中枢と維新のトップは非常に良好な関係を築いています。安倍政権との近似をどうご覧になりますか。

 

Q2で答えたように、両者の体質は非常に近いと思います。自民党の下野時代に維新は安倍晋三を「党首に」とラブコールを送ったことがありました。ケミストリーはほとんど同じだと思います。

 

Q5:この10年で、大阪の経済状況が好転し、街に活気が生まれたことも確かだと思います。維新はそれを「自分たちの改革の成果」としてアピールしています。この主張をどう思われますか。

 

「大阪の経済状況が好転している」ということについては、僕には特に実感はありません。このグローバル化された時代に、一自治体における経済政策の良否で、近隣自治体と違うような経済環境が出現するというようなことはありません。景況は無数のファクターの関数です。大阪に中国人観光客が増えたせいで、ずいぶん大阪は潤いましたけれど、あれは「中国政府の経済政策が成功して、中国人がリッチになった」ことの成果であって、大阪の行政とは関係ありません。今度はコロナ禍で来日するツーリストが激減して、観光業や飲食店はたいへんなダメージを受けますが、それは大阪の行政の失敗ではありません。関係ないものを結びつけて成否を言ってもあまり意味がないと思います。

 

Q6:万博やIR、「大阪都構想」実現の場合の大阪市から特別区への移行などは、すべて2025年ごろをターゲットとしています。その先、維新が何を掲げるのかは見えてきません。この10年、急成長し、大阪政界を席巻してきた維新ですが、果たしてこの先も生き残ることができるのかは見通せません。次の10年の維新はどうなるでしょうか。当然、それを左右するのは大阪の民意ということになりますが、民意はこの先どう移っていくでしょうか。

 

 どれも「あの作戦がうまくいって、あの作戦もうまくいった場合には皇軍大勝利」という典型的な「日本流」楽観論ですので、ネガティヴなファクターが一つでも入ると、すべて水泡に帰すと思います。

 このパンデミックで世界経済は数年では立ち直れないくらいのダメージを受けます。かなりの国が定常経済ないしマイナス成長のフェーズに入る。そういう世界的な停滞が予測される時期に、万博やIRのような「祝祭的イベント」で集客して経済浮揚効果をねらうのはまったく不適切だと思います。

 

 お祭り騒ぎをするだけの経済的余力があるなら、まずコロナ禍で痛めつけられた大阪の住民たちのための医療、福祉、教育などの公共的なセクターに優先的に予算を分配すべきだと思います。しかし、維新は「公共的なセクターへの割り当てを削り取って、民間に移管する」ことだけで支持を集めてきた政党ですから、方向を180度転換しなければならない。果たして、頭の中身を入れ替えることができるかどうか。僕は難しいだろうと思います。