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内田樹さんの「中国はこれからどうなるのか?」(中編) ☆ あさもりのりひこ No.971

華夷秩序コスモロジーにおいては、世界の中心(中原)に天命をうけた中華皇帝がいる。そこから同心円的に「王化の光」が広がり、その光が及ぶところが「王土」であり、光が届かない薄暗い辺境には「化外の地」が広がっている。そこには禽獣に類する「化外の民」が蟠踞している。「化外の地」である辺境は中華皇帝が実効支配しているわけではありません。でも、そこに住む者たちは皇帝に朝貢し、見返りに皇帝から官位爵位を受けています。だから、辺境の地は名目上は中国の属邦であり、事実上は辺境の王が支配する自治区であるわけです。

 

 

2021年1月22日の内田樹さんの論考「中国はこれからどうなるのか?」(中編)をご紹介する。

どおぞ。

 

 

― 中国の「持ち時間」は少ない。今のうちに何らかの対策を打とうとするはずです。

 

内田 中国はこれから人口動態的な制約によって「切れるカード」がしだいに少なくなります。だから、今のうちに「切れるカード」を集められるだけ集める必要がある。中国はまず国際社会に味方を増やそうとしています。さきほど言った医療外交がそうですし、「一帯一路」構想もそうです。今、中国が力を入れているのはアフリカです。これからあと22世紀まで人口が増え続けるアフリカは、中国にとってはマンパワーを潤沢に調達できる製造拠点でありかつ巨大なマーケットです。ですから中国はアフリカに必死に食い込もうとしている。

 経済援助や民間への投資だけではありません。中国はアフリカのいくつかの国では中央銀行の仕事まで代行しています。もともとアフリカ諸国では旧植民地宗主国の銀行が独立後も金融業を支配していたのですが、その欧州の銀行が次々と中国資本に買収されて、中国系の銀行が今では金融政策や通貨発行をコントロールしている。

 もう一つは文化政策です。中国は2000年代から世界中に孔子学院という文化機関を展開して、中国文化と中国語の普及を行っていますが、アフリカでは46か国に61カ所の孔子学院が設置されています。アフリカ各国に中国語ができて、中国文化に造詣の深いエリート層を形成しようという長期的な計画です。中国語をマスターした若者には、手厚い奨学制度が用意されていて、希望すれば中国の高等教育機関に留学ができる。欧米で高等教育を受けることができるのは、アフリカでは上流階級の子弟に限られますが、孔子学院で中国語を習って、中国政府の給費留学生になれば、それほど豊かでない家の子どもでも中国で高等教育を受けて学位を得ることができる。そうすれば母国に戻ってそれなりの地位に就ける。彼らは当然中国に対して親和的であり、中国人の友人知己もいる。そういう人たちがアフリカ各国の未来の指導層を形成するように中国は支援しているわけです。

 

― 中国はアフリカでは王道路線をとっている一方、アジアでは覇道路線をとっているようです。

 

内田 僕もそう思います。中国はアフリカや西アジアでは数十年スパンで味方を増やし、東アジアでは短期的に敵を潰すというふうに王道と覇道の切り替えをしているように見えます。長期戦略の王道路線では時間をかけて親中派を養成する。短期戦略の覇道路線では軍事的・経済的な実力差があるうちに獲れるだけのものを獲っておく。そして、2040年以降の「後退戦」を戦う段階になったら、それを小出しにする。そのための「譲歩の余地」や「負けしろ」を今のうちに稼いでいるのではないかと思います。

「一帯一路」構想は単なる経済政策ではなく、中央アジア、西アジア一帯をコントロールするための戦略だということを前にイスラーム法学者の中田考先生から伺いました。たしかにそう考えるといろいろつじつまが合う。ウイグル、カザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、タジキスタン・・・というエリアはイスラーム教スンナ派のテュルク系諸族の土地です。これからトルコが力をつけて東に影響力を拡大してきた場合、このエリアで「中華帝国」と「オスマン帝国」が接触することになります。中国にとって喫緊の課題はこのスンナ派テュルク族ベルトが統治上のリスクファクターにならないようにすることです。ですから、長期戦略としては王道的にこの地域に多額の投資をして、経済成長を支援して、スンナ派テュルク諸族を味方につける。短期的な覇道戦略としては、辺境の新疆ウイグルでのナショナリズムを暴力的に弾圧して、スンナ派テュルク族のクロスボーダーな連帯が中国領土に入ることを許さない。そういう二面的な戦略なのだと思います。

 

― 内田さんは中華帝国の世界観(コスモロジー)からも中国の動きを読み解いています。

 

内田 華夷秩序コスモロジーにおいては、世界の中心(中原)に天命をうけた中華皇帝がいる。そこから同心円的に「王化の光」が広がり、その光が及ぶところが「王土」であり、光が届かない薄暗い辺境には「化外の地」が広がっている。そこには禽獣に類する「化外の民」が蟠踞している。「化外の地」である辺境は中華皇帝が実効支配しているわけではありません。でも、そこに住む者たちは皇帝に朝貢し、見返りに皇帝から官位爵位を受けています。だから、辺境の地は名目上は中国の属邦であり、事実上は辺境の王が支配する自治区であるわけです。「一国二制度」というのは華夷秩序コスモロジーにおいてはもともと辺境の本来的なあり方だったのです。皇帝の力が強い時は中原も辺境も治まっていますが、皇帝の力が弱まると、謀反が起きたり、辺境の蛮族が中央に攻め込んできて、天命が革まって別姓の皇帝が新王朝を開く・・・という「易姓革命」が行われる。 

 皇帝と人民、中原と辺境はつねに緊張関係にあるわけです。だから、皇帝はつねに革命の可能性を警戒して、国民を猜疑のまなざしで監視するし、人民の側も皇帝や彼の官僚たちを信用しない。国民が政府にではなく、より小さな公共である親族ネットワークや郷党コミュニティなどの相互扶助的な中間団体に頼って生きてきたのは国家と人民の間にはつねにそういう緊張関係があったからです。

 現在、中国政府は世界最先端のIT技術を駆使して国民を監視していますが、これも伝統的な王と臣民の緊張関係を考えれば当然のことで、今に始まった話じゃない。すでに何年も前から中国では国家予算のうちの治安維持費は国防費を上回っていますが、それは中国政府が外敵の侵入を警戒する以上の警戒心を以て国民を監視しているということを意味しています。

 

 日本政府もあれこれと国民の個人情報を集めようとしていますけれど、マイナンバーのような効率の悪い制度設計ではまるで機能していない。それはそうです。税金の取りはぐれがないように国民監視するというようなゆるいインセンティブと、内戦や武装蜂起のリスクを回避するために国民監視するというのでは必死さが違います。