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今の日本社会は底の抜けたような反知性主義のうちに頽落している。いくら嘘をついても、デタラメを言っても、食言しても、政治家にとってまったくダメージにならないという時代がもう10年近く続いている。
2021年9月29日の内田樹さんの論考「日本共産党に期待すること」をご紹介する。
どおぞ。
という題で「赤旗」から寄稿依頼があった。こんなことを書いた。
日本共産党に期待することはいくつかある。せっかくだから他の人があまり言わなそうなことを書く。
第一に「論理的であること」「知性的であること」にこだわり続ける政党であること。
今の日本社会は底の抜けたような反知性主義のうちに頽落している。いくら嘘をついても、デタラメを言っても、食言しても、政治家にとってまったくダメージにならないという時代がもう10年近く続いている。
日本共産党だけはこの俗情に結託しないで欲しい。嘘をつくと顔が赤くなる。論理的でない言葉を言おうとすると舌がこわばる。そういう「かたくな」な政党であって欲しい。そういう政党が一つくらいは必要である。
第二に世界史的な存在であること。
離合集散を繰り返す諸政党を見ていると、いったい彼らがどういう綱領的課題を実現したくて政治をしているのかがわからなくなる。
日本共産党はこの100年、コミュニズムの興亡の歴史のただ中にあって、日本固有の特殊な歴史的条件下で、おのれの立ち位置を決定し、言語化し、国民の支持を求めるという困難な事業を担ってきた。
そのおかげもあって日本はマルクス主義研究と実践の蓄積においてアジア第一の「マルクス主義先進国」になった。このことの世界史的重要性を忘れるべきではない。歴史の風雪に耐え続けたこの政党が存在することは日本政治史を俯瞰するためにぜひとも必要だと私は思っている。
党名変更については、私は「共産党」という党名を維持して欲しいと思っている。
ロシア革命以来100年余、世界中で「共産党」という党名を掲げた政治組織が誕生し、活動し、いくつかは姿を消した。なぜ、ある国では共産党は生き残り、ある国では消滅し、ある国では姿を変えたのか。それを研究する「比較共産党史」という学問領域があれば、それぞれの国の固有の政治風土を理解する上できわめて有用だと私は考えている。
以前、「アメリカ共産党史」を調べたことがある。これは石川康宏さんとの共著『若者よマルクスを読もう』にのちに収録された。なぜアメリカでは共産主義が「土着」しなかったのかという関心から調べたものだが、アメリカの政治文化の特殊性を際立たせるという点では有効な視点だったと思う。
同じように「中国共産党史」も「フランス共産党史」も「イギリス共産党史」も「インドネシア共産党史」も「朝鮮共産党史」も、それぞれの国の固有の、土着の政治文化の特性を知る上では有用だろう。そのような世界史的研究の足場としても「日本共産党」という党名は変えるべきではないというのが私の考えである。