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内田樹さんの「統一教会問題についてのインタビュー」(後編) ☆ あさもりのりひこ No.1211

政府と自民党は、犯人が精神を深く病んでいて、妄想的に凶行に及んだのであって、統一教会と自民党を結ぶ線は事件においてまったく重要性がない...というストーリーにまとめて、彼を精神病院に収監させて、メディアの前には生涯二度と出さないという方向で動いていると思いますよ。

 

 

2022年7月25日の内田樹さんの論考「統一教会問題についてのインタビュー」(後編)をご紹介する。

どおぞ。

 

 

- 今回の銃撃した犯人をどう思いますか?

 

内田 よくわからないです。でも、政府と自民党は「犯人はサイコパスであり、突発的な事件であって、安倍元首相と統一教会の関係が原因ではない」という方向に話をもってゆくつもりでいるようですね。

 

- 無駄なあがきという気もしますが、犯人への同情はないですか?

 

内田 なんで僕が殺人犯に同情しなきゃいけないんですか? トマト投げるくらいならともかく、自作銃まで作って人を殺したんですよ。

 

- メディア的には同情論が強いかな?と思うんですが。

 

内田 同情論なんか僕はどこでも読んだことないですよ。誰が言っているの?

 

- ネットニュースなどで・・・。例えば元信者の人は「殺人はいけないけど、気持ちはわかる」という人はいます。

 

内田 こういう場合に「気持ちがわかる」という言い方はしてはいけないんです。「犯人の行動には主観的には合理性があり、その筋道をたどることはできる」ということは知性な作業ですが、「気持ちがわかる」というのは感情的な反応であって、この二つはまったく別のことですから。

 

- そこは大事なところですね。

 

内田 当人だって主観的には「自分のふるまいは合理的だ」と意味づけしているはずです。でも、この「犯人にとって主観的には合理的な犯行の理由」を開示されることを政府と自民党は恐れている。もしこれが公判に持ち込まれたら、「なぜ犯人が殺意を持つに至ったか」が中心的な論件になるからです。でも、それは自民党と統一教会の癒着の構造を白日の下にさらすことを意味する。だから、政府と自民党は、犯人が精神を深く病んでいて、妄想的に凶行に及んだのであって、統一教会と自民党を結ぶ線は事件においてまったく重要性がない...というストーリーにまとめて、彼を精神病院に収監させて、メディアの前には生涯二度と出さないという方向で動いていると思いますよ。

 

- そうです。公判はじまったら、全部ばれますよ。

 

内田 弁護団は自民党と統一教会の癒着についての証言をどんどん積み上げてくるでしょう。容疑者の思考や行動には「主観的には合理性がある」ことを証明することで情状酌量を勝ち取ろうとする。それが弁護方針としては最も効果的ですから。

 

- 内部告発も相次ぐでしょうしね。

 

内田 あるいは、そういうこともあるかも知れません。だから、とにかく裁判には持ち込みたくない。「留置場か病院で自殺」というストーリーが結果的には一番好ましい展開なんだが...と思っているんじゃないですか?

 

- 権力的な殺人ですか、そこまで出来るでしょうか?

 

内田 そこまではできないでしょう。こうやって僕みたいな人間が出て来て、口々に「留置場か病院収監中に自殺というシナリオが政府・自民党にとってはベストであろう」と周知してしまうと、シナリオ通りのことはいくらなんでもできない。この状況で、予測通りに「自殺で幕引き」にされたら、もう警察発表なんか誰も信じなくなる。警察が市民の信頼を致命的に失ってしまう。いくら警察の上層部が政府・自民党に「いい顔」をしたくても、警察組織そのものの信頼を揺るがせるようなリスクを取るわけにはゆかない。それにもう事件ついてはステークホルダーが多すぎて、情報統制のしようがないんじゃないでしょうか。それに、県警としては「狂人による偶発的な事件ではなく、緻密に計画された暗殺である」方が望ましい。「狂人による偶発的な事件」だったら「それくらいのことは想定内だろう。どうして回避できなかったのか」と責任を追及されますけれど、「銃器の操作に習熟した人間による周到な犯行」だということになると、「いくら要人警護と言っても、日本の場合はそこまでのリスクを想定した警備はふつうしません」という言い訳ができる。奈良県警が身に降りかかる責任を軽減しようとしたら、後の方のシナリオを選好するはずです。 

 

- 自民党は今、蜂の巣をつついたような大騒ぎでしょうね。

 

内田 でしょうね。内閣はとりあえず「様子見」だと思います。岸田さんは今のところは国葬で安倍派に対する配慮を示していますが、いずれ安倍派が内紛で分裂すれば、安倍派を優先的に配慮する必要もなくなってくる。それ以前に「統一教会と癒着していた議員」と「癒着していなかった議員」の間に対立が出てくると思います。「癒着していなかった議員」にしてみたら等し並みに「自民党議員は...」と責められることは「痛くもない腹を探られる」わけですから、「誰がクロかはっきりさせてくれ」という気分になる。一方のブラックやグレーの議員たちはうっかり癒着を認めて謝罪などすると「じゃあ、議員辞職して責任を取れ」という話になりかねない。それだと解党的な危機になりかねない。だから執行部としても、そこまでは追いつめられない。「癒着議員」をなんとか「謝罪」させて、かつ「責任を取らせないで済ませる」ためにはどうしたらいいのか、それを今党執行部では頭を悩ましていると思いますよ。

 

- 既にそういう状況が起きているのでは? 落としどころがないわけで、程度ものによっては議員辞職しなきゃいけないですから。

 

内田 「赤信号みんなで渡れば怖くない」ですから、癒着していた議員たちが100人くらい全員一斉に記者会見して、そこで最敬礼して謝罪するというのがたぶん一番傷が少ない解決法だと思います。それは「全員の足並みが揃うまでは謝罪しない」ということですが、全員の足並みが揃うことなんかあり得ない。だから、最終的には、誰一人謝罪しないままぐずぐずにするつもりだと思います。

 

- 野党にも若干いるみたいです。立憲にも数人いたとか・・・。

 

内田 野党が先に「癒着議員」に詰め腹を切らせて、離党なり、議員辞職なりさせたら、自民党に対してはこのあと一気に優位に立てます。でも、その政治判断が出来ないとしたら、そこが今の立憲のダメなところですね。