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すべての人生の難問は最終的には本人が「身銭を切らない」と片づきません。
2022年8月6日の内田樹さんの論考「自分のヴォイスを見つけるためのエクササイズ」(その5)をご紹介する。
どおぞ。
O川さま
おはようございます。内田樹です。
課題ありがとうございました。
面白かったです。「人生相談」なので、新聞の人生相談みたいに、回答者がずらずらと回答するパターンを想定していたんですけれど、対話形式になっていましたね。
あ、こういうのもあるのかと思いました。なるほど。
人生相談される人とされない人がいます。
される人は、「聞き上手」ということになるんですけれど、それはO川君が言うとおり、「相手に反論しない」「一般論に落とし込まない」ということを気づかう人です。
もう一つたいせつなポイントがあって、それは「相手が話し終わったあとに、ちょっと元気になる」という実効性です。O川君が「最後に気持ちよく帰ってもらうこと」というのがそれですね。
人生相談してくる人って、基本的に「それは自分で解決するしかないんじゃないの。人に聞いてもしょうがないよ・・・」という問いを向けてくるものです。
でも、それができずに人に聞いてくるのは、「正解」が欲しいわけじゃなくて、「自分で解決できるだけの体力・精神力がないので、ちょっとそれを補給して・・・」という泣訴なわけです。
だから、話をふんふんと聞いてあげて、「ちょっと休んだら?」と肩を叩いてあげるとか栄養ドリンクを一本買って上げるとか、それくらいでも人生相談した「甲斐はあった」ということになるんだと思います。
すべての人生の難問は最終的には本人が「身銭を切らない」と片づきません。
でも、難問に直面している人のほとんどは疲れ果て、追い詰められ、切るほどの身銭がない。だから、優先順位は「まず切るほどの身銭が身につく」方法をいっしょに考えて上げるということになります。
「いっぱい水を飲んで、よく寝なさい」とか「部屋の掃除をしたら?」とか「早寝早起きしたら?」とかいうアドバイスは質問にはまったく答えていないにもかかわらず有効なのはそのせいです。睡眠も、早起きも、部屋の掃除も、どれも「身銭」をちょっとだけ増やしますからね。ちょっとだけでも「切れる身銭」が身につくと、人は「身銭を切る」ということの意味がわかってきます。「なるほど、これを貯めればいいのか」ってわかる。
それが大事なんです。正解なんか、どうでもいいんです。元気になってくれさえすれば、だいたいのことは何とかなるんですから。
というところで、次の課題です。
しばらく続いている「戯曲シリーズ」です。これ、わりと書きやすそうですからね。
今回の出だしは
母「あの子、昨日なんか二階にいるのに、あたしの携帯に電話して『晩飯まだ』なんて訊くのよ!」
です。会話の相手は「父」です。
がんばってね。
O川さま
こんにちは。内田樹です。
今回は早かったですね。
そうか「あの子」は女の子なのね。なるほど。
あと、「お父さん」て、これそういう指示があったことを知らないで読むと「息子」と母の会話に聞えますね。「あの子」より2,3歳上の息子と母の会話。
父親の語り口やロジックというのがO川君にはまだ内面化していないのでしょうか。
そうかもしれないですね(これはたいへん興味深い論件ですが)。
あと、O川君の造形する人たちは(とくに男は)みんな「妙にものわかりがいい」ですね。自分のプリンシプルにこだわりがあって、「誰が何と言おうと、俺は俺だから」的な人物って、まだ出て来たことないんじゃないかな。
いや、良い悪いじゃないんですよ。「こだわり、プライド、被害者意識」は病んだ男たちの共通項ですから。そんなものはないにこしたことはない。けれども、それにしても、O川君が虚構として造形した男たちにおいてさえ、そういう傾向がなさ過ぎるというのもちょっと興味深いです。
というわけで、今度もO川君に「父親」を想像的に造形してもらうことにします。
この課題、なかなか面白いですね。人物を好きに造形してよいという条件の方が、書き手が「人間とはどういうものか」を考えている枠組みをあらわにするとは。
今回も枠組みだけ決めておきます。
今回の課題は「結婚式の新郎の父親からの謝辞」です。どういう条件での結婚かは好きに決めて下さい。
結婚披露宴が終わって、最後に父親がちょっと赤い顔をしてする挨拶です。
どんなふうでもいいです。定型的でもいいし、型破りでもいいし。どっちつかずでもいいです。言うことに筋が通っていてもいいし、支離滅裂でもいいです。条件は「リアルであること(ほんとにこんなオヤジいるよな・・・)」それだけです。
では。