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内田樹さんの「統一教会、安倍国葬について他」(その2) ☆ あさもりのりひこ No.1248

あの、もう一度いいますけれど、あの人たちを「右翼」とか「ナショナリスト」と呼ぶのは止めませんか。国内に外国軍の基地があるときに反基地運動の先頭に立たない右翼なんか世界中探してもどこにもいませんよ。親米右翼というのは、日本だけに存在している奇形的な存在なんです。

 

 

2022年9月12日の内田樹さんの論考「統一教会、安倍国葬について他」(その2)をご紹介する。

どおぞ。

 

 

―安倍元首相はネトウヨの支持を取り込むうえで、統一教会との関係を隠していたのでしょうか?

 

内田 いや、隠してないでしょう。第一次安倍政権の頃は隠していたかも知れないけれど、第二次政権からはもう隠していなかった。だから、ネトウヨの嫌韓センチメントというのはつじつまが合わないんです。本気で嫌韓なら、韓国が拠点の宗教団体とつるんでいて、巨大な利権を提供している安倍晋三を許せるはずがない。それが許せるというのは、ネトウヨにとっては「韓国が嫌い」よりも「安倍が好き」の方が優先するということです。

 さきほど「安倍系右翼」という言い方をしましたけれど、それだと思うんです。要するに「安倍系」ということなんです。彼らはうまく言葉に出来ない独特の怨念を安倍さんに託した。怨念の一つは反知性主義で、もう一つは宗主国アメリカに対する属国民としての反米感情です。知性や論理や倫理といった欧米の近代市民社会の基本になる原理が大嫌いで、アメリカも実は嫌いなのだけれど、それをうまく整合的な政治的言説にまとめることができない。

 安倍外交の特徴は、表面は親米だが裏面は反米という点です。これは祖父の岸信介元首相以来の「家風」と言ってよいと思います。アメリカを相手に戦争を仕掛けた人間が、戦争に敗けて、獄中転向して、アメリカのエージェントになることで政界に返り咲いて総理大臣になり、アメリカの軍事的属国になる条約を結んだ。だから、岸はアメリカに対しては恨みと恩義の両方を感じている。愛憎入り混じった感情を持っている。従属はしているけれど、機会があればひと泡吹かせたい。アメリカの子分としてふるまっているけれど、いつかアメリカと対等になりたい。いつかもう一度アメリカ相手に戦争をする機会があれば勝ちたい...それは日本国民の抑圧された集合的な欲望なのです。政治家も知識人も誰もそれは口に出さない。そんなこと公言したとたんに日本のシステム内ではたちまち地位を失うことが分かっているから。日本ではアメリカの国益を最優先に配慮する人間しか「上」に行けないようにキャリアパスが設計されているから、しかたがないのです。

 戦後の自民党の国家戦略は「対米従属を通じての対米自立」というものでした。徹底的に対米従属して、アメリカの信頼を勝ち得る。アメリカの戦略的パートナーという足場を固めてから、「のれん分け」をしてもらう。そして、アメリカのくびきから逃れたら、改憲して、核武装して、ほんものの主権国家たる「第二大日本帝国」に回帰する...そういう「口に出されないシナリオ」があった。

 安倍晋三に対する「安倍系」からの期待というのは、このシナリオを踏まえたものだったと思います。「もしかしたらこの人はもう一度日本を大国にしてくれるんじゃないか。もう一度日本を『戦争の出来る国』にしてくれるんじゃないか。日本をもう一度大日本帝国に回帰させてくれるんじゃないか」という期待が安倍政権を支える感情的な基盤だった。大家族でも、教育勅語でも、「八紘一宇」でも、戦前の日本を見たこともない人たちが、大日本帝国に幻想的な憧れを抱いた。それが「安倍系」をかたちづくる心理的核だったと思います。

 

―「日本を取り戻す」という発言に現れている。

 

内田 「美しい国」とかね。どれもそうです。「戦前の日本は美しかった」という安倍自身も、安倍系右翼も誰一人見たこともない体制に対する幻想的なノスタルジーが安倍体制の求心力だった。これはイデオロギーではないし、ただの懐古気分というのとも違う。もっと幻想的で、もっと生々しく、もっと混乱したものです。だから、その分始末に負えない。安倍晋三はそのカオス的な国民感情を個人として体現できた稀有の政治家でした。それは安倍晋三の「個人技」だったと思います。だから、誰かが代わりをするということはできないだろうと思います。高市早苗が「後継者」と言われていましたけれど、安倍晋三のような幾重にも屈折したものを持っていない。

 

―彼女は最初、無所属で出馬して、どちらかと言うとリベラルなイメージで売り出した(注:実際、後に「リベラルズ」という政策集団に高市氏は参加している)人ですからね。

 

内田 もともと安倍元首相の周りに集まって来た政治家たちは出世のために忠義面をしてきたわけですから、内面に安倍ほどに深い屈託を抱えているわけではない。出世主義者は別に特に実現したい政治的目標があるわけじゃありませんから、他に国民的人気のあるリーダーが出てきたら、「勝ち馬に乗る」ために簡単に路線を切り替えるでしょう。

 

―なんちゃって右翼が多いですね。

 

内田 あの、もう一度いいますけれど、あの人たちを「右翼」とか「ナショナリスト」と呼ぶのは止めませんか。国内に外国軍の基地があるときに反基地運動の先頭に立たない右翼なんか世界中探してもどこにもいませんよ。親米右翼というのは、日本だけに存在している奇形的な存在なんです。

 

―沖縄で基地の周辺にピケを張っている人のかなりの部分を新左翼系の団体が占めています。

 

内田 あの人たちの動機だって別に「左翼」的なものだと僕は思いませんね。彼らこそむしろナショナリストですよ。「外国軍から国土を守れ」って言っているんですから。

 

―軽薄な政治家が増えたと感じます。元々そういう思想を形成してきた人々じゃなくて、出世のために主張する。

 

内田 いつの間にか政治家が世襲の職業になってしまったからでしょうね。国会でも地方議会でも祖父の代から三代議員という人がたくさんいます。ほとんど「家業」として議員をしている。別に何か実現したい政治目標があるわけじゃない。その時その時の「受けのよい」スローガンにくっついてゆく。だから、統一教会と親密になると選挙で便利だと知るとすぐにくっつく。

 

―「統一教会はお得意さんなんだもん」という感じですね。

 

内田 たぶんそうだと思います。先代からごひいきのお得意さまから「ちょっと顔出してよ」と言われたら断れないでしょう。

 

―今後、どうなりますか?

 

内田 日本の統一教会が組織として解体する可能性はかなり高いと思います。でも、統一教会は米韓日に広がる国際ネットワークで、米韓では宗教活動よりもビジネス主体のグループです。日本は「集金」のための場所、ただの「草刈り場」ですから、ここに教会の本体はない。仮に「日本支社」がつぶれても米韓の統一教会の本体は生き延びることができます。「日本支社」が採算不芳部門と判断されたら、「閉店」になる可能性はあると思います。

 これだけ大々的に報道されると、もう新規信者の獲得は難しいでしょうし、脱会者もしだいに増えてくると思いますから日本の統一教会は組織的危機を迎えると思います。

 

―30年前の桜田淳子さん、山崎浩子さん騒動も信者によるとショックだったらしいですけどね。

 

内田 あの時はワイドショーネタでしたから。テレビと週刊誌と新聞の社会面が中心だった。今回は全然違います。政権との癒着というど真ん中の政治ネタですから。「視聴率が落ちたから、もう採り上げるの止めよう」ということにはならないでしょう。

 

―国会の中心部に直撃ですからね。

 

内田 統一教会は自民党に関係を絶たれると生き延びることが難しい。ですから、「自分たちが潰れるときは自民党も共倒れだぞ」と脅しをかけていると思います。もし、自民党が宗教法人格の剥奪とか、解散命令とかに同意するようなら、ただでは済まさない、と。

 

―永田町では、統一教会と決別すると言ったら反感を買う。ズドンとやられる政治家がいるんじゃないかと噂になっています。

 

 

内田 それはないでしょう。先頭を切って宗教法人格の剥奪とか、国税調査の必要とかを言い出す議員がいたら、統一教会から恨まれはするでしょうけれども、まさか襲ったりはしないと思います。そんなことが起きたら、誰だって「統一教会の仕業だ」と思います。それによって世論の反感がさらに高まることはあっても、政治家も警察もメディアも「怖いからもう統一教会には手を出さずにおこう」という話にはならないでしょう。