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統一教会問題で自民党が支持率を下げても、そこに維新が入り込むのは無理でしょう。カジノでも万博誘致でも大阪のコロナ対策でも、まったく成果を出せないでいることを、大阪住民以外は知っている。この機会に党勢を伸ばすことはできないと思います。
2022年9月12日の内田樹さんの論考「統一教会、安倍国葬について他」(その3)をご紹介する。
どおぞ。
―国葬になりますけど、外交はどうなると思いますか?
内田 期待されていた「弔問外交」は無理でしょう。バイデンは来ないし、マクロンは来ないし、もちろんプーチンも習近平も来ない。何より、国葬より先に統一教会葬が先に行われていますからね。「統一教会と弔意を共有する」というかたちになるのはどこの国の首脳にしてもあまり歓迎できる話じゃない。
国葬にすると口走ったのは岸田さんのフライングだと思います。事件直後はふだん安倍批判をしている人たちも「快癒をお祈りする」という論調でしたから、国葬で行けると判断したのでしょうけれども、背後に統一教会問題があると分かってから世論が一変した。どうして殺されることになったのか、その文脈を明らかにしないままに「国民的英雄」に祭り上げるわけにはゆかない思うのは当然でしょう。
―こういう状況になると思っていたら、やらなかったでしょう。
内田 ここまで反対が増えると思ったら、自民党・内閣葬で済ませたでしょうね。どうして、岸田さんがこんな愚かなフライングをしたのかわかりません。たぶん安倍派を取り込むためにやったんでしょうけれど、焦り過ぎでした。
国葬に法的根拠がないというだけでなく、池田隼人、佐藤栄作、田中角栄、中曽根康弘、福田赳夫といった印象深い総理大臣たちを差し置いて、「戦後政治史に卓越した政治家」であるという評価をあわてて確定しようとした。これは無理ですよ。人物の評価は「棺を覆いてこと定まる」と言われるように長い歴史の風雪に耐えて、後世の史家が判定するものです。死んで一週間で「評価が確定した」と言い出したわけですから、それは岸田さんの方に政治的な計算があって無理していると誰だってわかります。
―国会でも証人喚問なんて動きになるかもしれない。
内田 本来なら、国会内に特別調査委員会を作るべきなのですが、自民党と公明党と維新が反対して委員会はできないでしょう。でも、「特別調査委員会を作らない」というのは、調査されたら疚しいことがあると自分から告白しているようなものです。だから、癒着していた政治家にはもう逃げ場がないんです。ひたすら隠れて、メディアの追及から逃れて、「人の噂も75日」で、世間の関心が冷めて、別の問題に移るのを待つしかない。国葬も「話題をそらす」ために仕掛けた要素があると思います、でも、逆に火種になってしまった。
だから、今は自民党の議員たちはひたすら大事件や大災害が起こるのを待っていると思いますよ。例えば、自民党サイドから台湾有事についての言及が急に増えましたけれど、あれは「国難的事局に際して、こんなつまらない話をしている余裕はない。挙国一致でこの危機を乗り越えよう」というふうに話を逸らそうとしているからだと思います。
でも、そうやって必死になって統一教会の炎上を消そうとしている間に、五輪スキャンダルがぼろぼろ出てきてしまった。これまで統一教会であれ、五輪組織委の醜聞であれ、検察や公安や国税やメディアを抑え込んでいたのは安倍の「個人技」でしたから、彼がいなくなると「重石」が取れてしまった。萩生田政調会長も大手メディア相手なら「報道を控えろ」というくらいの圧力はかけられるでしょうけれど、検察や公安や国税にまで「仕事をするな」と圧力をかけられるほどの力はない。
―これまでの違法収入なんかを全部調査してやりたいと思うでしょうしね。
内田 公安だって国税だって、ほんとうは統一教会を監視したり、査察に入ったりしたかったんだと思いますよ。でも、「政治的な圧力」がかかって、活動できなかった。そんな中でも、公安調査庁や国税局は官邸には黙って統一教会の調査を続けていたと僕は思います。プロフェッショナルなんですから、やっていないはずがない。
東京五輪の贈収賄容疑で高橋治之元五輪組織委員会元理事が逮捕されましたけれど、あれだって、安倍元首相存命中だったら「五輪については触るな」という指示があって、検察は動けなかったはずです。
―岸田内閣はどうなりますかね?
内田 それほど長くは持たないと思います。低迷する支持率をV字回復させたければ、コロナ対策か、対ロ・対中国外交か、円安対策か、統一教会問題かどこかで華々しい成功を収める必要がある。でも、どれも無理でしょう。
それに、統一教会問題がぐずぐずしたまま来年四月の統一地方選を迎えた場合には、統一教会とかかわりのあった自民党の地方議員が大量に落選する可能性がある。その場合には、岸田さんは責任をとる他ない。「黄金の三年」と言われていましたけれど、思わぬところに落とし穴があった。ポスト岸田は統一教会問題については「手が白い人」を担ぐしかないと思いますが、適当な人がいるかどうか。
―河野太郎さんなどもそうじゃないでしょうか?
内田 教会と関係があった議員は全員が「総裁候補の資格なし」ということになると自民党にはもう要職に就けるだけの手ごまがなくなってしまう。どこかでグレーな議員であっても救済しなければいけない。鈴木エイトさんも有田芳生さんも「祝電を送ったり、イベントに出た程度の浅い付き合いだけの人と、選挙応援をしてもらったとか、秘書が信者とかいう深い付き合いがあった人は分けて扱うべきだ」と言っていますね。あれ、一見すると自民党に対して親身な言葉のように聞こえますけれど、実際にそれをやると結果的に自民党内に深刻な分断を持ち込むことになる。グレーゾーンにデジタルな「有罪/無罪」の線を引くと、それによって党が分断される。執行部としてはそれだけは避けたい。だから、自民党は「全員シロ」で突っ張ってくると思います。「統一教会関係団体とは知らなかった」「統一教会が何であるかを知らなかった」と「無知」で押し通すつもりでいる。「それほど世情に疎くて国会議員が務まるのか」と批判されても、「無知であることは国会議員の欠格条件ではない。現にあそこにもここにも無知な議員が山ほどいるが、みんなあなたがた有権者が選んだんじゃないか」と居直ることができる。だから、そうするでしょう。
―何処の勢力が伸びるでしょうかね。維新はどうですか。
内田 統一教会問題で自民党が支持率を下げても、そこに維新が入り込むのは無理でしょう。カジノでも万博誘致でも大阪のコロナ対策でも、まったく成果を出せないでいることを、大阪住民以外は知っている。この機会に党勢を伸ばすことはできないと思います。それよりは自民党が割れて、保守新党を作った場合、そこが台風の目になるでしょうけど。
―「腐敗政治と決別する」とか言って。
内田 そうです、保守新党はいつも「腐敗政治・金権政治と決別する」という旗じるしを掲げる。そして、政局を作って、世間の耳目を集めておいて、何年かしてからそっと自民党に復党する。党の延命のために一時的に分裂してみせるということは自民党の得意技なんです。今なら国民民主党と立憲民主党の右派と連合を巻き込んで、保守新党を作った場合に、次の統一地方選なら大勝する可能性がある。国民民主党と立憲民主党は先がないですから、もし自民党を割って出た政治家がいた場合、それに乗って来る議員は出てくると思います。「先がない者同士」でも合流すると一時的にはメディアの注目を浴びる。これまであきるほど見てきた光景です。小池新党だって、一瞬は第一党になるという夢を見てたでしょう。
それに、いま政界再編ゲームを始めると、統一教会問題から「新党」に一気にメディアの関心が移る。その方がじっとうつむいてほとぼりが冷めるのを待つよりも効果的かも知れない。永田町界隈ではそれくらいの「仕掛け」を考えている人はもういると思いますよ。