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内田樹さんの「辰巳孝太郎さんと対談した」(後篇) ☆ あさもりのりひこ No.1332

このあと日本は急激な人口減を迎えますが、その中で資本主義の延命を図り、経済成長にこだわる人たちにできることは一つしかないんです。それは都市部に資源を集中させ、それ以外の地方は過疎化・無住地化することです。

 

 

2023年1月30日の内田樹さんの論考「辰巳孝太郎さんと対談した」(後篇)をご紹介する。

どおぞ。

 

 

内田 カジノは世界的にすでに斜陽産業になっています。いま黒字なのはシンガポールとラスヴェガスくらいで、米東海岸最大の賭博都市アトランティックシティでも次々カジノが閉鎖されているというのが現実です。コロナによる行動制限、富裕層の偏在、人口減、どのファクターもカジノ商売には先がないことを示しています。まったく歴史的なトレンドを読まずに無理押しするわけですから、大阪カジノは歴史的失敗となることは確実です。大阪はこの後カジノがもたらす巨額の赤字を抱え込んで、苦しむことになると思います。

たつみ カジノはギャンブルだから経済の成長にはなりません。吉村知事は依存症対策を進めていくと言いますが、ギャンブル依存症は1回なれば治癒しないんですよね。世論調査でカジノ反対の理由の一番は、依存症が増えることと治安が心配だということ。現に警察官を300人増やすと言っています。公務員は減らす一方で。

内田 治安悪化もギャンブル依存症も、深刻な社会問題として顕在化するのは何年も経ってからです。その頃には「カジノをつくろう」と言い出した人たちは姿を消していて、責任を取る人間は一人もいない。そして、垂れ流される赤字のツケを払い続けるのは未来の大阪府民市民です。

たつみ 「大阪都」構想の住民投票では、保守の方も含めて運動を繰り広げ、ぎりぎりのところで大阪市廃止を止めました。大阪は人情の街といわれてきましたが、分断をあおる政治ではなく、協調・共同して大阪の経済や文化、教育、医療を守って支えていく大阪にすることこそが私の一番の使命だと思っています。

記者会見でも言いましたが、とにかく討論会をやってほしい。吉村さんはコロナで自分の言いたいことだけ言ってますが、頑張っているのなら、なぜ大阪でこれだけ多くの人が亡くなっているのか。今の大阪がどうなっていて、どう変えるべきか、ぜひ可視化させたいと思います。

内田 討論会はぜひやってほしいですね。

たつみ 大阪の経済を支えている中小零細企業にも光を当てたいと思っています。この間、お会いした東大阪の工場の社長さんは、トヨタの車をつくるAIのアームのねじを作っておられました。そのねじがつぶれて車が造れないと、入院中の社長に電話が掛かってきたんですが、ねじを作れるのはその社長さんしかいないので、手術の翌日に工場に戻って作ったそうです。大阪の中小零細企業が日本の経済を支えているんだと思いました。

内田 僕たちが名前も知らない日本の中小企業が世界的なメーカーのサプライチェーンに繋がっているんです。

たつみ ところが後継者がなくてその代で終わりになると。国の政策として後継者継承支援策はありますが、府に独自施策がないんです。僕が知事になれば、まず東大阪、八尾などに視察に行きたいと思っています。

内田 ぜひ、地方の中小企業の支援をお願いします。このあと日本は急激な人口減を迎えますが、その中で資本主義の延命を図り、経済成長にこだわる人たちにできることは一つしかないんです。それは都市部に資源を集中させ、それ以外の地方は過疎化・無住地化することです。人為的に過密地と過疎地を作る「囲い込み」です。

たつみ 国交省もコンパクトシティとか言っています。スーパーメガシティ構想でも日本は関東、中部、近畿の3地域でいいという方向性です。平成の市町村合併で、合併したところとしなかったところを比較した方がおられるんですが、合併しなかったところのほうが人口が多いと。

内田 そうなんです。合併すると、逆に生活できない土地が増えてくるんです。合併すると、経済合理性を言い訳にして、行政機関も学校も病院も警察も消防も統廃合されて、そういう行政サービスが何も受けられない行政の空白地ができる。「人口の少ないところに行政コストはかけられない。文化的な生活がしたければ都市部に引っ越せ」というのは、「これから先、過疎地には住むな」という政府や自治体からのメッセージなんです。

たつみ 大阪でも人口減で悩んでいる自治体がありますが、そういうところで学校などがなくなると、さらに人が減るでしょうね。

内田 小さな地方都市であっても、行政機関と病院と学校があれば雇用を創出して、地域経済を回せるんです。アメリカの地方都市には、州政府機関と大きな病院と大学だけで雇用と消費を創出しているところがあるそうです。

たつみ なるほど。

内田 行政と医療と教育のための拠点が残っていれば、住民はそこで生業を営むことができる。でも、今日本で行われているのは、行政と医療と教育の拠点「つぶし」です。それが最優先されている。そうやって統廃合を続ければ、雇用が失われ、地域の経済活動が冷え込み、生活に必要な基本的な行政サービスさえ受けられない「居住不能地」がどんどん広がって来る。それより津々浦々に行政機関、病院、学校を維持し、そこを中心に地域経済を回す仕組みをつくるほうが、はるかに合理的な解だと思います。

たつみ 今こそ大々的に打ち出して、これでこそ地域活性化するということと、何でも統廃合、民営化の維新政治は町を衰退させるばかりだということを話していく必要がありますね。

内田 すべての国民資源を都市部に集中する「シンガポール化」を行えば、たしかに人口減社会でも、都市部だけは人口過密状態が維持できますから、それなりに活発な経済活動が営めます。でも、それ以外の土地は無住地化し、居住不能になる。無住地になれば、地価はほとんどゼロですし、生態系を破壊しても抗議する地域住民そのものがいなくなる。ですから、ある意味でビジネスにとってはビッグチャンスなんです。おそらくそうやって人為的に創り出された無住地には原発や太陽光発電や産業廃棄物処理場などが建設されることになると思います。日本の山河がそういうふうに破壊されることに僕は耐えられないんです。たつみさんにはぜひ府内どこでも文化的な生活ができ、生業が営め、伝統的な祭祀や文化を守っていけるような地域を守る政策を掲げてほしいです。

たつみ 街頭で訴えを聴いてくれている人の中には、僕と同世代で、就職氷河期世代で苦しんだ人たちが少なくありません。バブルの後、政策的に貧困がつくられる中で自己責任論を押し付けられてきた人たちに、今まで分断されてきたよね、でもそういう分断はやめよう、やめようと言ってもいいんだ、公務労働者をいじめるなと言っていいんだという言葉が共感されているのを感じます。

内田 たつみさんにはぜひとも知事になって、維新の新自由主義的な政治を止めていただきたいです。僕もできる限り応援します。