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「今日のパーティに来ている右翼は僕一人だよ」と鈴木さんは笑っていた。
2022年2月15日の内田樹さんの論考「鈴木邦男さんのこと」をご紹介する。
どおぞ。
1月11日に鈴木邦男さんが亡くなった。最後にお会いしたのは、2年前の2月に鈴木さんの戦いを記録したドキュメンタリー『愛国者に気をつけろ』の上映の時だった。中村真夕監督と鼎談した。鈴木さんはその時はもう車椅子でやって来ていて、笑顔と諧謔はいつもの通りだったけれど、言葉にはあまり力がなかった。映画館の前で鈴木さんの乗ったタクシーに手を振りながら、「もうお会いできないかも知れない」と思ったけれど、やはりそうなった。
鈴木さんと最初に会ったのは10年前、西宮で行われていた「鈴木邦男ゼミ」にゲストとして呼ばれた時だった。「あの鈴木邦男」にどう値踏みされるかすごく緊張した。でも、お会いしてみたら鈴木さんは温顔で迎えてくれた。対談でも武道修業が話題の中心で、僕が恐れていたような政治的に剣呑な話題にはならなかった。
そのときにすっかり意気投合して、以後鈴木さんとは定期的にお会いするようになった。そのときの談話を素材にゼミの企画者だった鹿砦社の福本高大さんが対談集『慨世の遠吠え』を編集してくれた。
福島みずほさんの議員生活15周年記念パーティに招かれて行った時に、青山の会場で鈴木さんとばったり会ったことがある。僕も鈴木さんも会場に他に知り合いが見つからず、二人で会場の隅でビールを飲みながらぐだぐだおしゃべりをした。「今日のパーティに来ている右翼は僕一人だよ」と鈴木さんは笑っていた。その時にのちに『ある精肉店の話』を撮ることになる映画監督の纐纈あやさんが僕たちを見つけて話しかけてきたので名刺交換をした。不良高校生二人が授業をさぼって体育館裏で煙草を吸っているところに、クラス委員の子が来て「あ、また、さぼって」と笑いながらにらみつけるような感じがして、鈴木さんも僕もなんだかもあたふたと要領を得ない対応をしてしまった。あの時の鈴木さんの照れたような笑い顔が忘れられない。ご冥福をお祈りします。
(信濃毎日新聞 2月9日)