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内田樹さんの「トルコから見た日本マンガ」 ☆ あさもりのりひこ No.1355

日本マンガでは、主人公は師に就いての修行を通じて連続的に自己変容する。「ほんとうの自分」を見出すのではなく、修行を通じて「別人」になるのである。

 

 

2023年3月27日の内田樹さんの論考「トルコから見た日本マンガ」をご紹介する。

どおぞ。

 

 

トルコの大学で日本文化を教えている山本直輝さんから日本マンガ論が送られてきた。世界中にマンガの類は存在するが、なぜ日本の少年マンガだけが他を圧する人気を得ているのか、その理由を論じたものである。山本さんの仮説は「師弟関係が主題だから」というものであった。これには私も満腔の同意を表したい。

 むろん西欧にも師弟関係をめぐる説話は存在する。だが、映画でもコミックでも、弟子が師から長い時間をかけて知恵や技能を教わるという「修行」プロセスには十分な紙数が割かれない。弟子は多くの場合、たちまち驚異的な能力を会得して、以後ヒーローとして活躍する。

 映画『スターウォーズ』は師弟関係を扱った物語の代表作だが、師ヨーダの下で修行を始めたルークは未熟なまま「私用」で修行を止めてしまう。でも、次作冒頭では堂々たるジェダイの騎士として登場する。「生まれつき高いフォースを備えていたから」でこの不整合は説明される。最新作の主人公レイにはもう師がいないし、修行もしない。生まれつき『スターウォーズ』史上最強のジェダイの騎士なのである。「ほんとうの自分」を見出せば(修行プロセスをパスしても)人は最強になり得るという信念が欧米の説話の際立った特徴のようである。

 翻って、日本マンガでは、主人公は師に就いての修行を通じて連続的に自己変容する。「ほんとうの自分」を見出すのではなく、修行を通じて「別人」になるのである。

 このような非―西欧的説話に世界の読者が熱狂する理由を山本さんこう説明する。「日本の少年マンガは世界に残された唯一のビルドゥグス・ロマンなのである。そこにはアイデンティティ・ポリティクスもなければ、国民国家や政府の望む勝利の歴史もない。マンガは人間社会はどこまでも複雑であることを若者に教えようとしている。」

 

 まことにその通りだと思う。