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内田樹さんの「農を語る(前編)その1」 ☆ あさもりのりひこ No.1626 

日本の国益を考えたら、あらゆる手立てを尽くして農業を守り、自給率を上げるのが最も合理的な解です。

 

 

2024年12月16日の内田樹さんの論考「農を語る(前編)その1」をご紹介する。

どおぞ。

 

 

食料の自給自足は国の根幹である

 

藤井聡 今回は、神戸女学院大学名誉教授で武道家でもあられる内田樹先生にお越しいただきました。内田先生は文学や思想、社会科学などいろいろな側面から時勢的な問題について論じられていますが、以前この「農を語る」にもご登壇いただいた堤未果さんと食と農の問題について対談されていましたよね 。それを拝見したこともありまして、今回お越しいただいた次第です。どうぞよろしくお願いいたします。

 早速ですが、内田先生は現在の「農」についてどのようにお考えでしょうか。

 

内田 僕への講演依頼で一番多いのは教育関係ですが、次に多いのが医療と農業です。JAさんをはじめいろいろな団体から声がかかっていて、あちこちで講演しています。演題として多いのは人口減少についてですね。今農村は急激な人口減少で、もはや過疎地を通り越して無住地化しつつあります。農村の現場の細かいことは研究者じゃないのでよく知らないのですが、大風呂敷を広げるのは得意なので、人口減少の文明史的な意味とは一体どういうものなのかという話をした上で、農業従事者の皆さん方はどう対処すべきかについて意見を申し上げます。僕からの提言は絶対に里山や農業を捨ててはいけないということです。

 

藤井 愚問かもしれませんが、絶対に捨ててはいけないとご主張される理由はどういったところにあるのでしょうか。

 

内田 農業は国の基本だからです。エネルギーと食料の自給自足は国の根幹です。これはどちらも足りなくなったからといって、いつでも必要な量だけ、必要な時に市場で調達できるというものではありません。そのことはコロナでよく分かったはずです。サプライチェーンが途絶したら、お金がいくらあったって欲しいものが買えなくなる。アメリカはマスクや防護服のようなものは途上国に作らせて輸入した方が安いという理由でほとんどをアウトソーシングしていたせいで、輸入が途絶えたとたんに医療崩壊が起きて多数の死者が出ました。マスクや防護服や検査キットのような、シンプルで安価な医療資源は、賃金の高いアメリカ国内で作る必要なんかない、在庫も要らない。「要る時に金を出せばいい」という「賢い」経営判断のせいで、たくさんの人が死んだ。「こんなものはいつでも買える」と思っていたものが買えなくなることがある。それについての想像力の不足が一番怖いんです。今の日本だって、いつ南海トラフ巨大地震が来るのか分からない。米中戦争だって起こるかもしれない。何が起きても国民を守ることが国の責務なんですから、エネルギーと食料と医療の自給自足はどんなことがあっても最優先で目指すべき最重要課題だと思います。

 

藤井 アメリカなどの先進国、G7諸国は食料自給率100%、200%を目指して輸出産業としても育てているのが一般的で、そのためにかなりの国費を投入して自給率を上げていますが、日本はそういう雰囲気になっていませんよね。カロリーベースの自給率はたったの38%しかありませんし。

 

内田 東京大学の鈴木宣弘先生によると、実際には10%を切るそうです。

 

日本の食料自給率が下がればアメリカの国益になる

 

藤井 自給率を高めるには二つの方法があり、一つは補助金をしっかりと出して農業所得を保障してあげることです。いわば「公共事業」として、農家の人たちを公務員のような格好でお雇いするという考え方です。もう一つ、「関税」を高めて農業を保護するという伝統的な方法もあります。

この二つの方法が基本ですが、前者の補助金はどんどん少なくなっていますし、後者の関税もTPPをはじめとする自由化を通じて下げるのが善であるかのような風潮があります。これは本当に由々しき事態ですよね。

 

内田 日本の国益を考えたら、あらゆる手立てを尽くして農業を守り、自給率を上げるのが最も合理的な解です。でも、そうなっていない。ということは、日本の農業が政府の補助で維持され、日本の食料自給率が上がることを望まない「外圧」が存在するということになる。誰が考えても、それはアメリカ以外にない。アメリカが政官財のさまざまなチャンネルを通じて、今の日本の農業政策をコントロールしている。そう考えるのが合理的だと思います。

 

藤井 いわゆる「ジャパンハンドラー」と呼ばれる人たちがアメリカにいますよね。CSIS(戦略国際問題研究所)などはジャパンハンドラーたちの巣窟であり、小泉進次郎さんもそこで研究されていましたからね。彼は自民党の農林部会の部会長をやっていた時期があり、農協の株式会社化や農林中金の自由化などを主張されています。しかもそれが「改革」と呼ばれ、何か良いものであるかのように言われていますよね。

 

内田 自民党の総裁選に出ている政治家たち、立憲民主党の代表選に出ている政治家たちの話を聴いていると、明らかに日本国民ではなく、ホワイトハウスに向けてシグナルを送っているということが分かります。例えば、「在日米軍の既得権には決して手を付けません」というような公約は国内的には支持率の向上にはつながるはずがない。それでも必ず公約するのは、それがアメリカ向けのジェスチャーだからです。「私が日本の首相になっても、アメリカの国益に抵触するようなことは決してしません。だから承認してください」とアピールしている。

 

藤井 多くの政治家は口には出さないでしょうけれども、アメリカを怒らせたら政治家として続かないという恐怖心があるのでしょうね。

 

内田 それは遠く田中角栄から、鳩山由紀夫、小沢一郎の前例から明らかですからね。

 

藤井 総理大臣としての政治生命を絶たれてしまうという、控えめな表現をすれば「都市伝説」があるわけです。事実であればもっと有効性がありますが、仮に都市伝説だったとしてもそれだけで一定の効果がありますよね。

 

内田 アメリカが実際に手を出して政治生命を奪うということはしていないと思いますが、日本の政治家と官僚とメディアがアメリカの意を「忖度」して、アメリカの国益に資するように動いている。

 

藤井 現在、自民党の総裁候補として小泉進次郎さんの名前が挙がっていますが、CIAやホワイトハウスが直接彼に電話して指示しているわけではないですからね。もしかしたら電話しているのかもしれませんが()

 

 

内田 CIAかどこかのアメリカのシンクタンクから派遣された人が政策ブレーンとして政治家たちの周りにいて、アドバイスを求められたときに「こうすればアメリカは喜びますよね」と知恵を付けている可能性はありますね。あくまでそういう間接的なコントロールにとどまっていて、「ホットライン」でアメリカから指示が出ているということはないと思います。