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内田樹さんの「身体の外部化」 ☆ あさもりのりひこ No.1695

人間は自分の身体をモデルにして機械や制度を作る。

人間のややこしいところは、こうやって創り出した機械や制度に呪縛されて、機械や制度に合わせて身体を使うようになることである。

 

 

2025年5月2日の内田樹さんの論考「身体の外部化」をご紹介する。

どおぞ。

 

 

人間は自分の身体をモデルにして機械や制度を作る。たぶんそうだと思う。建物は上階に偉い人がいて命令を出す。階が下がるほど身分が下がり、地下には駐車場やボイラー室がある。どんな独創的な建築家もこの逆の構造体(地下に社長室があって、最上階に倉庫がある建物)を提案したことはないと思う(しても施主が一瞬で却下する)。それは、これが脳とそれ以外の部位の関係を外部化したものだからだ。社会制度も同じである。上に「頭」がいて、下に「手足」や「股肱」が配される。

 人間のややこしいところは、こうやって創り出した機械や制度に呪縛されて、機械や制度に合わせて身体を使うようになることである。これは稽古を見ているとわかる。社会的地位の高い中高年男性には「脳が運動を中枢的に支配する」システムに居着く人が多い。「現場に権限移譲する」ことに強い心理的抵抗が働くのだろう。

脳支配が過剰だと手の操作にリソースが優先的に分配される。手が気になるので、手が視野の中にないと落ち着かない。実際には手の可動域は視野の外にまで広がるのだが、手を視野内に収めたいので、動きが小さくなる。「ほう・れん・そう」とかうるさく部下に指示して、自分の目の届かないところで「手足」が勝手に動くことを許さない中間管理職みたいなものである。

 社会制度を身体に取り込み、身体を機械のように操作する人たちの思い込みを解除して、そもそも制度や機械は身体内部で起きていることを外形化したものに過ぎない、身体にはもっと豊かな可能性があると理解させることも稽古の大切な目標である。

 でも、「自分で作り出したものに呪縛されることをマルクスは『疎外』と呼びました。脳の支配から身体を解放しなければなりません」と説明しているうちに、このような言葉づかいそのものが「階級闘争」という外部の事象を身体に取り込んで説明しようとしているのだということに気がついて愕然とするのである。

 

(月刊武道 3月20日)