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内田樹さんの「農を語る(後編)その2」 ☆ あさもりのりひこ No.1732

最優先の政治課題として農業を守らなければいけないわけです。でも、過疎地に人がいるとビジネス的には困るんですよね。行政コストがかかるしあまり使い道がないですから。そこで全部無住地にすることで、一気にビジネスチャンスを広げようとするわけです。ソーラーパネルを敷き詰めたり原発を作ったり風力発電をしたり、あるいは産業廃棄物を捨てたりとか。地域住民がいないので、生態系なんかいくら壊してもいいわけですよね。

 

 

2024年12月16日の内田樹さんの論考「農を語る(後編)その2」をご紹介する。

どおぞ。

 

 

過疎地から人を排除しようとする「ビジネスマインド」

 

藤井 こういう議論をしていると、農業を守るのは当たり前のことだと誰でも思いますよね。

 

内田 最優先の政治課題として農業を守らなければいけないわけです。でも、過疎地に人がいるとビジネス的には困るんですよね。行政コストがかかるしあまり使い道がないですから。そこで全部無住地にすることで、一気にビジネスチャンスを広げようとするわけです。ソーラーパネルを敷き詰めたり原発を作ったり風力発電をしたり、あるいは産業廃棄物を捨てたりとか。地域住民がいないので、生態系なんかいくら壊してもいいわけですよね。

 今の日本のビジネスマンは「過疎地は金がかかってしょうがないのだから人口をゼロにしろ。そうすればコストをかけなくて済む」と考えているのでしょうし、僕がもし邪悪な性格のビジネスマンだったら絶対にそう考えます。今だって国土の62%が無住地ですから、これが70%や80%になっても誰も気がつかないと思うでしょうね。

 

藤井 TPPとか自由化とか緊縮をやって、2040年に農家が3分の1に減ったら無住地だらけになりますよね。

 

内田 そうです。彼らは明確に全国の無住地化を目指していると思います。生態系を管理するコストは莫大にかかりますよね。川や森や海を管理しなければならないわけですから。そこに人が住んで生き延びるためには絶対必要だから、生態系の維持に膨大なコストをかけるのだけれども、人が住んでいなかったら生態系の維持にコストをかける必要がなくなり、破壊し放題なわけです。発電ビジネスをやっている人たちはそれを絶対に狙っていると思います。それで日本に住めなくなったら、「ハワイにコンドミニアムがあるからそこに移る」となるのでしょうね。

 

藤井 それこそ、自分の娘がべっぴんだからどこかに売ろうか、みたいな話と変わらないですよね。なぜこういう下品な比喩を申し上げたかというと、国土は有機物だと思うからです。和辻哲郎の風土論もそういうものですが、国土を無住地化するということは無機物化するということであり、それはレイプと一緒ですよね。女性に尊厳があるからレイプが駄目なのに、その尊厳を壊すのがレイプという行為だとすると、ソーラーパネルを山河に敷き詰めているのは国土をレイプしているのと同じですよ。

 

内田 実際に見るとそう感じますよ。普通の感受性なら、お金が欲しくてこんなことをするはずはなくて、明らかに自然を陵辱していますし、悪意ですよ。

 

藤井 そう思いますね。でも、そこに田園や畑があれば決してそう思わないですよね。気候と人間とが共存するのが農という営みで、雨が降ってきて水田を作って収穫して、また虫が育っていく。生態系と人間の営みが循環の中で溶け合っていくことが大切ですよね。

 

内田 それによって新しい価値が生まれてくるんですよね。

 

藤井 そうですね。太陽光発電もレイプも一回の行為で終わりじゃないですか。そうではなく循環することが大事で、家族で愛し合うだとか、国土と愛し合うとか、そういうものが人間の人間らしさであって、国土を道具として使うというのは友達や女性を道具として使っているのと一緒だと思いますね。

 

「農」の破壊の背後にある「悪意」

 

内田 僕の友達に想田和弘という映画監督がいて、彼は岡山県牛窓というところに住んでいます。この前彼の家に遊びに行ったら小高い丘の上に連れて行ってくれて、目の前に瀬戸内海が広がっていました。その北側に錦海湾という湾があるのですが、湾が一面真っ黒になっていました。錦海湾は、かつては浅海で豊かな漁場だったのですが、1970年代に製塩業をやろうと言った奴がいて埋め立てたんです。その後、製塩業が全くビジネスにならなくて廃棄されてしまいました。一度製塩に利用した土地は農業に使えなくなるので、産業廃棄物の処分場や工場を建てたのですが、最終的にソーラーパネルを敷き詰めることになり、湾が真っ黒になってしまったわけです。それを見たときに「何と愚かなことをしたんだ」と思いました。

 短期的な金儲けのために埋め立ててビジネスをやったら大失敗して、その後ソーラーパネルを敷き詰めて、これも何年か経ったら全部産廃にされてしまうわけです。短期的にしかものを考えない人間たちが自然を壊している光景を見て、僕は悪意を感じましたね。

 

藤井 レイプする人はそこで欲望を満たそうとしているのでしょうが、それと同じような悪意を感じますよね。

 

内田 人が大事にしているものを破壊することによって全能感を感じるのでしょうね。皆が綺麗だと思っている海に土足で踏み込んで、皆が悲しむのを見て「俺はこれだけの人たちに悲しみを与えられるのだ」と思うのでしょう。イーロン・マスクがTwitterを買収して世界のユーザーがショックを受けましたが、あれもおそらく金儲けのためではなく、世界の何億人ものユーザーが絶望に打ちひしがれている姿を見て、自分の全能感を感じているのでしょう。ああいう人間っているんですよ。

 

藤井 僕は『エクソシスト』とかの悪魔映画が好きで山ほど観ているのですが、ホラー映画は現実の人々の行動の中にある悪魔を純化して描いているわけです。キリスト教の悪魔や日本の悪霊として出てくるのはそういうものだと思うのですが、日本が悪魔化、悪霊化していくと農は滅び去る運命にあるということですね。

 

内田 今の日本で農を破壊しているのは、ある種のすごく邪悪な意思だと思います。本人はおそらく気がついていなくて、最新のビジネスモデルに適合しているとか、あるいはアメリカの国家戦略、世界戦略に適合していると思っているのかもしれないけれども、実際に駆動しているのは非常にドロドロした邪悪な意思だと思いますね。

 

藤井 本誌では文芸批評家の浜崎洋介さんを中心に「文学座談会」をずっとやっていたのですが、そこで「国土の荒廃」というテーマで石牟礼道子さんの『苦海浄土』と富岡多恵子さんの『波うつ土地』を取り上げたことがあります。どちらも国土が陵辱されるというお話を描いている本で、この感覚を我々は忘れているんですよね。「金が儲かったらええやないか」というものではないんです。こういう感覚をちゃんと持っておくことが人として、そして真っ当な国として存在していく必要条件であって、その必要条件が満たされているかどうかというリトマス紙が、その国が農をどれだけ大事にしているかということになのでしょうね。

 

内田 全くその通りですね。

 

藤井 今日は内田先生に初めてお目にかかりましたが、非常に面白かったです。内田先生はどちらかというと「左翼」と言われることが多いと思われますし、僕は保守なので「藤井と内田先生は違うんちゃうか?」と思っている人もいるかもしれませんが、ほぼ同じことを考えていると思います。真っ当な保守と「ビジネス保守」がいるように、左翼も真っ当な左翼と「ビジネス左翼」的な人がいるのかもしれませんね。

 

内田 ビジネス左翼はあまりいないと思いますが、非常に教条主義的でものの見方が固定化している人は多いですね。

 

藤井 朝日新聞とかはかなりビジネス化しているところもあるでしょうが、教条主義的な人と、そうではなくしっかりと議論できる人がそれぞれにいるということが改めて見えましたし、こういった思想的な問題の果てに農の問題があるということを確認できたと思います。

 内田先生は前からお話ししたいと思っておりまして、お時間がありましたら食事でもご一緒できればと思いますし、これを機にいろいろなところでお話ができればと思います。どうもありがとうございました。

 

内田 こちらこそありがとうございました。