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内田樹さんの「報道の自由について」 ☆ あさもりのりひこ No.1746

報道機関にできることは、できるだけ多様な立場からの多様な政治的意見を市民たちの前に提示し、その良否についてはジャーナリストとしての見識に基づいて言うべきことを言うということだと私は思う。

 

 

2025年8月12日の内田樹さんの論考「報道の自由について」をご紹介する。

どおぞ。

 

 

一年ほど前から「縁側ラジオ」というポッドキャスト番組を配信している。お相手はMBSアナウンサーの西靖さん。前回は参院選の話。「選挙期間中メディアは沈黙し、ネットでは真偽定からぬ情報が飛び交う」という悪しき習慣はどうして生まれたのかについて話した。

「政治的に公平であること」を定めた放送法第四条を過度に厳密に解釈すると、「すべての政党について均等な時間を割いて、あたうかぎり中立的に報道する」ということになる。実際に総務大臣が放送法に違反すれば「停波もある」とテレビ局に恫喝を加えたことがあった。怯えた放送局はストップウオッチ片手に「全政党について同じ時間報道する」ということをしてみたのだが、あまりにその作業が不毛なので、ついに「選挙期間中は何も報道しない」という虚無的な態度に陥ったのである。

 愚かな話である。報道の公平性というのはさまざまな言論が自由に行き交う場を創り上げ、維持する努力という遂行的なかたちでしか存在しない。「はい、これが『報道の公平性』です」といって取り出してお見せできるようなものではない。ストップウオッチ片手に各政党についての報道時間を揃えることで「報道の公平性」が実現できると思っていたとしたら、そんな人間にはジャーナリストを名乗る資格はない。

 報道機関にできることは、できるだけ多様な立場からの多様な政治的意見を市民たちの前に提示し、その良否についてはジャーナリストとしての見識に基づいて言うべきことを言うということだと私は思う。

 今回の参院選では憲法の基礎理念を真っ向から否定する政策を掲げた政党がいくつも登場してきた。それが日本の未来にとってよいことだと思う報道人はそう述べればいいし、それは日本を危うくすると思う報道人は堂々とそう述べればいい。「公正に」という言い訳で政党の政策をそのまま垂れ流すなら、それはその「広報」と変わらない。

 

(信濃毎日新聞 7月11日)