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内田樹さんの「「環球時報」からの質問への答え」(その2) ☆ あさもりのりひこ No.1792

私は高市首相の国会答弁については、それが日本政府の従来の方針に反していること、国際社会のどの国もその発言を支持していないこと、中国との関係を悪化させて、外交的にも経済的にも文化的にも、日本国民に多大の損害を与えていること、そして、中国政府と中国国民のうちに日本政府と日本国民に対する不信感を扶植したことを根拠に、発言をただちに撤回し、これまで日本政府が守ってきた外交的節度を破ったことについて中国に謝罪し、その責任をとって総理大臣を辞職することを求めています。

 

 

2025年11月23日の内田樹さんの論考「「環球時報」からの質問への答え」(その2)をご紹介する。

どおぞ。

 

 

 台湾では2340万人の市民が自力で獲得した民主的で平和な社会に暮らしています。彼らの自由と権利は最大限尊重されるべきだと私は思いますし、そのためにも「反乱」や「鎮圧」というようなシリアスな事態が起きないことを私は切望していますが、仮にそれが起きた場合でも、諸外国にできるのは国際機関を通じた調停の試みと人道支援までだろうと思います。自衛隊の武力介入は、事態をさらに紛糾させ、東アジアの軍事的緊張を高め、日中の全面戦争をもたらしかねない「悪手」です。

 この理路はアメリカにも理解できるはずです。1861年に南部11州がアメリカ合衆国からの「独立」を宣言した時、リンカーン大統領はこれを「反乱」とみなして、「鎮圧」しました。南部11州は「アメリカ連合国(Confederate States of America)」を名乗り、憲法も国旗も国歌も持っていましたが、諸外国はこれを承認せず、南部の滅亡を座視しました。

 もし、アメリカが台湾有事に軍事介入するとしたら(高市首相はそれを「高い可能性でありうること」だと信じているようですが)、それは「南部11州の独立は合法的であり、リンカーンの鎮圧は不適切であった」というふうに自国歴史を書き換えることを意味します。これをアメリカ国民が容易に受け入れることができるとは思われません。アメリカの「戦略的曖昧さ」は実は「アメリカも台湾についてどうしてよいかわからないでいる」ということの迂回的な表現だと私は理解しています。

 最初の質問の答えだけで長くなってしまって申し訳ありません。ご質問の「私が高市首相に反対する理由」ですが、以上書いてきた通り、私は高市首相の国会答弁については、それが日本政府の従来の方針に反していること、国際社会のどの国もその発言を支持していないこと、中国との関係を悪化させて、外交的にも経済的にも文化的にも、日本国民に多大の損害を与えていること、そして、中国政府と中国国民のうちに日本政府と日本国民に対する不信感を扶植したことを根拠に、発言をただちに撤回し、これまで日本政府が守ってきた外交的節度を破ったことについて中国に謝罪し、その責任をとって総理大臣を辞職することを求めています。

 

問2:

現在SNS上には「中国側は高市首相の発言に対して『過剰反応』だ」という見方もあります。これに対しては、どのように思われますか?中国の反応は過激だと感じられますか?

 

 私は中国の反応を過剰反応だとは思いません。発言直後の薛剣駐大阪総領事による「汚い首は斬ってやる」という投稿は感情的なものだったのか、あるいは計算されたものだったのか、どちらか私にはわかりません。しかし、あの投稿が「高市発言は由々しい外交問題である」ということを内外に知らしめたことは確かです。もし、あれが「高市首相には慎重な態度を求める」という程度の穏やかなものだったら、日本政府も日本国民もことの重大さに気が付かなかったと思います。

 事実、首相の国会答弁直後には、首相から思いがけない答弁を引き出した岡田議員自身も「まずいと思って、すぐ話題を変えた」と語っています。それは言い換えれば「話題を変えれば、たぶん外交問題にはならない」と思っていたということでしょう。国会中継の画面を見るとわかりますが、高市発言があった時、後ろの席にいた茂木外相と林総務相は顔を上げてもいません。たぶん「ああ、高市さん、またいつもの話をしているな」くらいの受け止め方で聞き流していたのでしょう。

 ですから、総領事の投稿は一時的な感情に駆られてなされたというよりは、「これは重大な事案である」ということを日本政府と日本国民に理解させるためになされたものだろうと私は解釈しています。事実、日本政府からの抗議を受けて、投稿は削除されました。もう政治的な目的は達した、という意味なのでしょう。

 まず強い言葉で問題を提示し、次には経済的なプレッシャーを加え、最後は軍事的に威嚇する・・・というのがふつうの国の間で対立がエスカレートする順番ですが、中国政府はその順番の通りにカードを切っています。

 中国が日本に軍事的な圧力を加えるということは「最後のカード」です。そこまでゆくと日本国民も恐怖と不安で、中国に対する敵意が醸成されて、国交正常化が一層困難になります。そうならないように、できるだけ早い段階で高市首相が非を認めればそれだけ日本がこうむる被害は少なくなる。日本の被害が受忍限度内のうちに問題を解決するように中国は外交をリードしていると思います。なによりも高市首相個人の発言だけに問題を限定して、日本政府や日本人全体を「共犯関係」に括り込まないという抑制的な配慮を示しています。

 問題は、その中国側のシグナルが日本国民に伝わっているかどうかです。残念ながら、大手メディア、新聞やテレビを通じてこの問題を論じている人たちにはこのシグナルは十分には伝わっていないようです。あるいは気づいているが無視しているのかも知れません。

 

問3:

 歴代の日本首相を振り返ってみると、中国に対してどのような立場を持っていたとしても、台湾問題に関しては非常に慎重でした。なぜなら、これは明らかに中国の内政問題だからです。しかし高市首相はこのレッドラインを踏み越え、台湾海峡問題に介入しています。

この傾向については、どのようなご観察をお持ちでしょうか。これは、日本の一部政治家がこれらの「レッドライン」を突破しようとしていることを意味するのでしょうか?このような傾向は日本国内でさらに蔓延される可能性がありますでしょうか。

 

 高市首相が「レッドライン」を超えたのは、一つは資質問題であり、一つは政治的マヌーヴァーとしてだと私は思います。

 資質問題というのは「軽率」ということです。台湾有事について、高市首相は総裁選でも今回と同じように具体的に「中国による台湾侵攻」事態を例示して、それが存立危機事態に当たる可能性が高いと述べています。おそらく支持者たちだけの「内輪の会」では、これまでもそのようなことを繰り返し述べて、支持層にアピールしてきたのだと思います。その「いつもの語り口」に慣れ過ぎていて、国会答弁でも軽率にも「内輪のパーティ」と同じような言葉づかいをしてしまったということだと思います。軽率というのは、そのことです。

 二つ目の政治的マヌーヴァーというのは、高市首相は政権基盤がかなり脆弱であり、極右排外主義者たちは彼女にとって「最後の砦」であるので、その層へのリップサービスとして「言わなくてもいいこと」を言ってしまったということです。

 しかし、このリップサービスは実際に効を奏し、高市支持者の中には「よくタブーを破った」「中国に対して強く出た」という点を評価する人たちが少なくありません。

 

 日中関係が悪化することから利益を得る人は日本国内にはいません。しかし、政権基盤の弱い高市首相は、隣国に対する排外主義的な機運を醸成することで、国民の自分の政治的無能に向かう批判をかわすことが期待できます。とりわけ今は株価、国債、通貨の「トリプル安」で、高市首相はリーダーとしての見識、力量に疑問が突きつけられています。失政から国民の目を逸らし、おのれの政治的延命のために、レイシズムやゼノフォビアを利用するのは、無能な為政者の陥り易いピットフォールです。