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自分が何者であるかを急いで決めつけることはない。だって、生命の本質は変化だからだ。君の本質は「変わらないもの」にではなく、変化しつつある運動のうちにある。
2026年1月17日の内田樹さんの論考「正直に生きる」をご紹介する。
どおぞ。
友人の平川克美君と、二人の母校である小学校に呼ばれて「対談講演」をしてきた。それぞれ言いたいことを言い、相手の話を説明したり、補足したりする「二人三脚」的話芸である。60年来の友人なので、こういう不思議なことができる。
小学生に向かって話すのは楽しい。中学生になると、周りの眼を気にして、ぎごちない反応をする子どもが出てくるが、小学生はそんな気づかいをしない。周りを気にせず、まっすぐこちらを見つめてくる。
私は「正直に生きること」の大切さを話した。「正直に生きる」というのは「自分に居着かない」ということである。「自分らしく生きる」とか「オレなりのこだわり」とかいうのは「居着き」である。自分自身を「自分らしさという檻」に閉じ込めることである。自分が何者であるかを急いで決めつけることはない。だって、生命の本質は変化だからだ。君たちもそうだ。君の本質は「変わらないもの」にではなく、変化しつつある運動のうちにある。それにはまだ名前がついていない。どんな特性のかもまだわからない。わからなくていいんだ。
だから、今傍らにいる友人たちは、これからはどんどん身体つきも語る言葉も表情も変わってゆくけれども、それは生命体として自然なことなんだから決して「変わったな」とか「らしくないぜ」というような言葉は口にしないようにして欲しい。
成長している植物の先端は日光や水分を求めて活発に細胞分裂をしている。その「細胞分裂をしている先端」が君だ。そこが君の居場所だ。
その植物の学名がどうであるとか、どんな科目に分類されているかとかいうことはどうでもいいんだ。今細胞分裂しつつある先端が「どこ」に向かい、「何を」求めて伸びているのか、それが大事なんだ。「先端に身を置くこと」、それが「正直に生きる」ということなんだよ。
そんな話をした。子どもたちは身を乗り出して聴いてくれた。(信濃毎日新聞12月14日)