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内田樹さんの「アメリカは内戦に向かうのかの思考実験」(その2) ☆ あさもりのりひこ No.1830

内戦が起きるとしたら、反トランプのデモが過激化して、抑えにかかってきたICEや州軍との間で銃撃戦が起きて、連邦職員や州兵や市民から死者が出るという場合ですね。その場合に一気にアメリカが内戦状態に入る可能性はある。

 

 

2026年2月11日の内田樹さんの論考「アメリカは内戦に向かうのかの思考実験」(その2)ご紹介する。

どおぞ。

 

 

 アメリカはシビル・ウォーを過去に1回経験しています。「シビル・ウォー」はふつうは「内戦」と訳すべき語なんですけれど、日本人はこれを「南北戦争」と訳しました。1861年というと幕末、文久三年頃のことです。幕末の幕閣の中に、英語ができる人がいて、その人がアメリカで起きた戦乱を日本語に訳す時に「内戦」ではなく「南北戦争」と訳した。これはなかなか興味深い「誤訳」だと思います。

 本当は「内戦」でなければいけないんです。「南北戦争」と訳すと、まるで「南の国」と「北の国」があって、その2つの独立国が戦っているというふうに解釈される。幕末の日本の英語が読める人がアメリカ事情を将軍に報告する時に、「内戦」ではなく、これは「南北の間の戦争だ」と言った。この訳語を選んだ日本人はなかなか現実をよく見ていたと思います。これは二つの国の間の戦争ではなくて、内戦であると言い張ったのはリンカーンなんです。南部11州の人たちは、これを「シヴィル・ウォー」だとは思っていなかった。

 南部11州は合衆国を脱盟して、Confederate States of America「アメリカ連合国」という国を創りました。アラバマ州モンゴメリーに首都もあるし、ジェファーソン・デイヴィスという大統領もいるし、もちろん憲法もあるし、国旗もあるし、国歌もある。だから本人たちは独立国のつもりでした。

 準州や共和国が合衆国に加盟する時には、それぞれの議会で議決して、住民投票にかけて同意を得ます。加盟申請を連邦議会に送り、認められると合衆国の一州になる。ですから、その手続きの逆をすれば、合衆国から脱盟できると南部の人たちは思ったのです。議会での議決と住民投票で同意が得られたら、それでいいはずだと思った。

 ところが合衆国憲法には、加盟の規定はあるけども、脱盟の規定がないんです。入口だけあって、出口がない。どうやったら合衆国から出ることができるかについての規定がない。ふつうに考えたら、州議会の決定と州民投票で「合衆国から出る」と決まったら、連邦議会にそれを阻止する権利はないはずなんです。だって「一緒にいたくない」って言うんですから、止めてもしようがない。南部11州の人たちはそう思った。奴隷制を続けたいから。それで、脱盟した。そして国を作った。でも、リンカーンは南部の脱盟を認めず、これを「叛乱」とみなして鎮圧することにした。

 南部11州が創った国は独立国なのか、アメリカ合衆国の一部なのか、それが問題の核心でした。でも、アメリカ連合国を承認した国は国際社会にはありませんでした。英仏は同情的でしたけれども、まあ様子見です。どうなっちゃうのかわからないから。戦争が長引いたり、あるいは戦況が南部に有利に展開した場合、アメリカ連合国を独立国として承認した国が出て来た可能性もあります。でも、残念ながら、アメリカ連合国を独立国として承認した国はなかった。だから、これは「戦争」じゃなくて「内戦」だとリンカーンは言ったわけですよね。結果的に南軍が敗けて、南部11州は再びアメリカ合衆国に戻りました。

 戦後、1869年に「テキサス州対ホワイト」という裁判がありました。テキサス州の脱盟は合法か非合法かを争ったんです。戦争中にテキサス州が戦費調達のために、米国債をホワイトさんという民間人に売却しました。ところが戦争が終わった後に、「アメリカ連合国テキサス州などという政体は存在したことがないものなので、その州政府が行った債券の売却は無効だ」という裁判を「アメリカ合衆国テキサス州」が起こした。「アメリカ連合国テキサス州」というのは脳内妄想のようなものであって、そんな幽霊みたいなものにはむろん米国債を売る権利はない。だから債券を返せと言い出したんです。当然、ホワイトさんはこの取引は合法的だと言い張る。そりゃそうですよね。

 でも、その裁判で最高裁は「脱盟は違憲であるからアメリカ連合国テキサス州の行った取引は無効」という判決を下しました。合衆国は共通の起源から生まれた有機的な政体なので、一度加盟したら、もう出ることはできない。だから、「アメリカ連合国テキサス州」などというものは実は存在したことがないのだ、と。以後、州の単独離脱は違憲という原則が確立しました。ただし、判決文では「革命によるか、諸州の同意による」場合は例外としています。

 

 テキサス州やカリフォルニア州では今も独立運動がさかんです。州の独立は違憲とされているのですけれども、なぜか独立運動がある。それはこの最高裁判決が法理的には筋が通らないからです。

 たしかに東部13州は「共通の起源」から生まれた同質性の高い政治単位ですけれども、テキサスとかカリフォルニアとか後から合衆国に加盟した州は、成り立ちが違います。カリフォルニア共和国も、テキサス共和国も、ハワイ共和国も、みなもともとは独立国で、自分たちから申請して、アメリカ合衆国の州になったんです。「またもとの独立国に戻りたい」と言うことはふつうに考えれば止められないでしょう。

 だから、次の「南北戦争」も、前回と同じように、いくつかの州が合衆国からの独立を宣言するというかたちで始まるのではないかと思います。一番独立に近いのがカリフォルニアです。カリフォルニアは、トランプ登場の前の世論調査でも、「合法的にカリフォルニアが独立できるなら、独立したい」と答えた州民が32%いました。トランプがアメリカをめちゃくちゃにした後にもう一度世論調査しました。「もし平和裏かつ合法的に、アメリカ合衆国から独立できるなら、あなたは賛成か反対か」と訊いたら、44%の人が賛成と答えた。かなりの数字ですよね。確かに「平和裏かつ合法的に」という条件はクリアーするのが難しい。でも、アメリカ合衆国の国民でいたくないって思ってる人が、カリフォルニア州民の44%いるわけです。この数字はこのあともっと増えると思います。このあとさらにトランプのカリフォルニアへの攻撃が続いていった場合、州民が「もう我慢できない。独立だ」と言い出すのは時間の問題だと思います。

 ギャビン・ニューサムという人が、今のカリフォルニア州知事ですけど、もちろん民主党で、反トランプの急先鋒で、2028年の民主党の大統領候補の一人です。この間からトランプは民主党の知事がいる州について、「治安が悪化している」という理由で州兵を勝手に派兵しています。本来州兵は、州知事の指揮下にあります。大統領が州兵に指示を出せるのは、州内で暴動などが起きて、市民の人権が危機的な状態にあるが、州政府がもう法執行能力がないというような場合に限定されます。でも、トランプは勝手に「この州はもう連邦法が執行できないくらいに治安が悪い」と判断して、好き勝手に州兵を送っている。

 平時に州兵を大統領が動かすのは憲法違反なんです。ニューサム知事は全米知事協会に対して、トランプに対して決然とした態度を取るべきだという声明を発出しています。大統領が勝手に州軍に指示を出すなということについて全米知事協会として決議しろ、と。もし知事協会が動かないなら、カリフォルニア州知事は全米知事協会から脱退する、と。これは日本では扱いの小さなニュースでしたけれども、州が連邦政府機関から脱退するって言い出しているんですから、かなり重要な「潮目の変化」ではないかと僕は思います。

 仮にカリフォルニアが独立したら、人口3,900万人。GDP世界4位。アメリカ、中国、ドイツに次ぐ「大国」となります。シリコンバレーがありますから先端的なテクノロジーの発信拠点です。土地も豊かだしね。農業もさかんだし、自然資源もあるし。ハリウッドもある。カリフォルニアはアジア系の市民が多いところですから、今のトランプの移民政策に対して強く反発している。彼らはトランプの移民政策に対してかなりの恐怖心を感じている。このままだと、いきなりICEに逮捕されて、本国へ強制送還とかいうことがあり得るわけです。その国の言葉もしゃべれないし、親族も知人もいない「祖国」に強制送還されるかも知れない。グリーンカードが無効になるかも知れない。そういうリスクにさらされている人たちからすれば、カリフォルニアがアメリカ合衆国でなくなることに希望を託すということは合理的な判断です。

 

 内戦が起きるとしたら、反トランプのデモが過激化して、抑えにかかってきたICEや州軍との間で銃撃戦が起きて、連邦職員や州兵や市民から死者が出るという場合ですね。その場合に一気にアメリカが内戦状態に入る可能性はある。