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内田樹さんの「改憲について」(後編) ☆ あさもりのりひこ No.1839

問題は高市ではありません(ろくでもない政治家なんて掃いて捨てるほどいます)。問題は高市を支持してしまう人たちが「希望のないこと」に安住しているということの方だと思います。

 

 

2026年2月23日の内田樹さんの論考「改憲について」(後編)をご紹介する。

どおぞ。

 

 

質問(2):例えば、所謂「ソフトな高市支持層」のような人達に改憲の危険さを伝えるとき、どういう言葉の選び方をするのが効果的か、思案しています。対面の会話の場合と文章の場合、また相手との関係性によっても様々なケースがありますが、いずれにしても、ただ一方的に高市の欠点や邪悪さをあげつらうだけでは足りない気もします。この点について、何かお考えがありましたらご教示ください。

 

 人を見る目がある人とない人がいて、「人を見る目がない人」は簡単に、繰り返し騙されます。この欠点は補正できないもののようです。僕が知る限り、どれほど煮え湯を飲まされても、「人を見る目がない人」はその後も繰り返し騙され続けますから。

 これはフロイトのいう「反復強迫」かも知れません。騙されることでどれほど不快な思いをしても、それが同じパターンを繰り返すことへの固着を解除してくれない。

 フロイトが挙げているのは三人の男と結婚して、三人とも病弱で、死ぬまで夫の看病をすることになった気の毒な女性の例です。彼女はもちろん「死にそうな男」を選んで結婚したのです。配偶者を失う苦しみよりも、同じパターンを繰り返すことへの固着が優先したのです。

 日本の有権者が自民党を選び続けて30年間どんどん不幸になっているのは、これは「快感原則」では説明がつきません。高市支持層はいずれ彼女が国民の期待を裏切って、生活が苦しくなり、行政サービスが低下し、税金は上がり、国力は下がり、日本の国際社会の地位が下がることを内心では「知っています」(だから、実際にそうなっても別に失望しないし、支持を止めることもない)。

 これまでずっとそうやって「ひどい目」に遭ってきたので、それを回避することよりも同じ種類の苦しみと失望を繰り返し経験することの方が気分がよいのでしょう。「知らぬ仏より知っている鬼の方がましじゃけの」という台詞が『仁義なき戦い 代理戦争』にありますけれど、この言葉が日本の有権者の内心を言い当てているような気がします。見たこともない社会について希望を抱くよりも、見慣れたろくでもない社会にいた方が安心できる。

 問題は高市ではありません(ろくでもない政治家なんて掃いて捨てるほどいます)。問題は高市を支持してしまう人たちが「希望のないこと」に安住しているということの方だと思います。

 

質問(3):実際に国民投票となった場合、マスメディア(=電通)は圧倒的な物量作戦を仕掛けてくることが予想されます。我々市民は徒手空拳で戦わねばなりません。この運動を少しでも効率良く広げるために必要なポイントは何か(または、こういうやり方はマイナスなので避けるべき、などでも)、お考えがありましたらご教示ください(漠然とした質問で恐縮です)。

 

 実際に改憲の国民投票になったら、自民党はあらゆる媒体を使って「改憲」キャンペーンを打ってくるでしょう。そして、朝から晩まで、新聞もテレビもネットも「改憲改憲」と言い立てたら、日本の有権者はころりと騙されてしまうと思います。国民投票までもってゆかれたら、「護憲勢力」がいくらがんばっても改憲を防ぐことはできません。

 防ぐ手立てがあるとしたら「外圧」だけです。

 中国と韓国とアジアの隣邦は日本の「先軍政治化」に強い不安と懸念を抱き、それを表明するでしょう。でも、それ以上は「内政干渉」になるから自粛するしかない。

 アメリカは自分たちが日本に与えた憲法の理念を全否定されるわけですから、不愉快でしょうけれども、トランプ大統領自身がアメリカの独立宣言の理念も合衆国憲法の理念も現に踏みにじっているわけですから、日本の「変節」に対して倫理的な批判をする資格がない。

 唯一の頼りになるのは、天皇陛下が「私自身は憲法99条の規定に従い憲法を尊重し、擁護してきましたし、それが間違っていたとは思いません」と護憲宣言することだと思います。天皇陛下がそのような「おことば」を口にされたら、心を動かされる国民は少なくないと思いますが、内閣はこのようなメッセージの発信を天皇の国事行為の範囲を超えるものとして禁止するでしょう。

 というわけで八方ふさがりです。

 とはいえ、世の中、何が起きるかわかりませんから。あまり悲観的になるのは止めましょう。

 改憲発議より先に円安でインフレが止まらないとか、レアアースの禁輸で自動車産業が操業停止するとか、水膨れした自民党国会議員が次々と不祥事を起こすとか、あるいはアメリカで内戦が起きるとか・・・そういう別の事件が続いて「改憲どころじゃない」ということになるかも知れません。

 希望のない話ですみません。でも、これくらい絶望しないと、話は始まりません。