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内田樹さんの「最も弱い敵」 ☆ あさもりのりひこ No.1858

反撃のリスクがなく、外形が有徴的で、決まった地域に集住している集団が「最も弱い敵」である。

 

 

2026年3月29日の内田樹さんの論考「最も弱い敵」をご紹介する。

どおぞ。

 

 

 この記事が紙面に出る頃には高市首相は訪米して、日米首脳会談が行われ、その結果も知られていることだろう。トランプ大統領はホルムズ海峡への自衛艦の派遣を日本に求めただろうか、高市首相はそれに「イエス」と答えただろうか。今の時点では私にはまだわからない。トランプの要求に首相が「イエス」と答えたと仮定して、そのあと何が起きるのかを考えてみたい(「ノー」と答えた場合は首相には合理的な思考ができるだけの知力とアメリカに抗うだけの胆力があったということなので、先のことはあまり心配しなくてよいのである)。

 アメリカの同盟国のほとんどすべてがホルムズ海峡への艦船派遣を拒否した中で、日本だけがアメリカの尻についてゆくとしたら、当事国のイランを始め、グローバルサウスの多くの国から「敵」と認定されることになる。それも「弱い敵」である。

 「弱い敵」というのは(皆さんも日常生活で経験しているだろうが)最も暴力を自制することが難しい相手である。「強い敵」なら反撃が予測されるので、暴力行使については多少とも抑制的になる。でも、「弱い敵」に対してはこの自制が効かない。

 日本人が国内の少数派に向ける差別的暴力にしばしば節度がないのは、反撃のリスクがないからである。反撃のリスクがなく、外形が有徴的で、決まった地域に集住している集団が「最も弱い敵」である。

 日本がこのあとイラク相手の戦争でアメリカとイスラエルの支援国になれば、国際社会の反米勢力は日本を「最も弱い敵」に認定するだろう。最初はそれらの国からの「制裁」対象になる。それからさまざまな国際機関からフルメンバー認定を取り消され、最後は軍事的恫喝のリスクに怯えるようになる。この窮状を生き延びるには「アメリカから離れて『敵』認定を外してもらう」か、「アメリカくらいの軍事力を持つ」しかない。(信濃毎日新聞3月20日、別の原稿と差し替えのため未発表)