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内田樹さんの「月刊日本のロングインタビュー」(その2) ☆ あさもりのりひこ No.1869

イランは日韓に対してホルムズ海峡通過の条件として、「今回のアメリカ、イスラエルのイラン攻撃は国際法違反である。イエスかノーかでお答えください」と迫ってくるでしょう。日韓はその前でためらっている。これに「イエス」と答えればタンカーは通れる。

 

 

2026年4月15日の内田樹さんの論考「月刊日本のロングインタビュー」(その2)をご紹介する。

どおぞ。

 

 

―― イランで戦闘が続く中、3月19日には日米首脳会談が行われました。

 

内田 今回の首脳会談では「実際に起きたこと」よりも「起きても良かったのに起きなかったこと」の方により重要な意味があると思います。

 高市首相は「ホルムズ海峡にただちに自衛艦を派遣して、米国と共に戦います」と誓言したかったのだと思います。日本が「参戦」を約束すれば、国際的に孤立しているトランプにとっては、これほどうれしいことはない。当然高市を「なんと勇敢で賢明な指導者だろう」と絶賛するでしょう。ホワイトハウスでも国賓待遇で歓待する。米の御用メディアはトランプと共に戦うと宣言した高市首相の姿を英雄のように描くでしょう。

 そうなると帰国後、高市首相はこう言うでしょう。

「自衛隊の即時派兵を大統領に約束した。これを裏切ったら日米同盟は終わる。国際的に孤立しているアメリカにいま味方として参戦することによって初めて日本は真に対等なアメリカの同盟国になれるのだ。」

 これはロジカルには正しいんです。アメリカは間違った戦争を始めてしまった。世界のどこの国もアメリカを応援してくれない。アメリカは困っている。そんな時こそ「恩を売る」絶好の機会である。

 でも、官邸の側近たちは「絶対に派兵の約束をするな。『憲法九条があるから派兵はできない。可及的すみやかに改憲して、軍隊を海外に出せるようにするから、それまで待ってくれ』という以上のことは言ってはいけない」と首相を羽交い絞めにした。だから、首相はまことに不本意ながら「法理的に、日本にはできることとできないことがある」というあいまいな表現しかできなかった。

 でも、トランプが望んでいたのは自衛隊の即時派兵です。「オレは憲法も国際法も気にしないで戦争を始めたぜ、お前もそうすればいい。」トランプはたぶんそう思っていた。でも、高市は「最大限のスピード感を持って、真摯に改憲に取り組みます」というような定型句しか口にできなかった。ホワイトハウスのアナリストは、日本の政治家が「最大限の努力を以て」というよう大仰な言葉を使うのは「とりあえずやらない」という意味だということを知っていたので、トランプに「高市は即時派兵する気ないですよ」とささやいた。トランプは高市に失望した。「こいつはチキンだ」と思った。ホワイトハウスのホームページに掲げられた日米首脳会談の動画やギャラリーの写真があれほど屈辱的なものになったのはそのせいです。高市首相が拳を突き上げながら叫んでいる写真が最初に掲載されています。動画には、真珠湾のことをトランプにギャグにされてぼんやりしている首相の顔、オートペンの画に差し替えられたバイデン前大統領の写真の前で大袈裟に驚き、笑ってみせる場面などが収録されています。高市首相がトランプにおもねっている場面だけを選択的に掲載したのです。動画の最後には、高市首相が「Thank you, Donald, for inviting me to the White House」と言った音声も収録されていますが、発音が不鮮明で、何を言っているのか聴き取れない。わざわざ何を言っているのかわからない部分だけを切り取ったのだとしたら、「英語もろくに話せないやつ」であることを誇示する意図でしょう。

 この高市首相の醜態は全世界に配信され、日本がアメリカの属国であるという事実はありありと可視化されました。加えて、属国の代官という役割を忠実に演じたにもかかわらず、トランプの要求に100%の回答ができなかったがゆえに、高市首相は「使えないやつ」の烙印を押された。高市首相はホワイトハウスのホームページを観て愕然としたと思います。首相のプライドも傷ついたでしょうが、日本の国家的威信も傷ついた。

 確かに日本のメディアは「ほぼ無傷で乗り切った」と高市首相の外交手腕を高く評価しました。アメリカの戦争に巻き込まれずに済んだことは良かったと僕も思います。でも、それは憲法九条の功績であって、高市首相にとってはまことに不本意な結果だったはずです。

 高市首相としては、自衛艦の即時派遣を大統領に約束し、大統領に「イーブン・パートナー」として持ち上げられ、帰国するや「日米同盟の信義」を盾にして「存立危機事態」を宣言して、九条を無視して自衛艦を派遣する...というシナリオを空想していたのだと思います。そうすれば戦後81年を経てついに日本を「戦争ができる国」に作り替え、九条の軛を断ち切った「レジェンド」として歴史に名前を遺すことができた。でも、できなかった。悪いのは「絶対に自衛艦の即時派遣だけは約束しちゃダメですよ」と羽交い絞めにした官邸の腰抜けどもだ。高市首相はそう思って、深い絶望のうちにある。僕はそんなふうに想像します。

 

―― 高市政権は日本の生存戦略を追求しているはずだと思いますが、高市政権の戦略をどう評価していますか。

 

内田 高市政権の戦略はトランプに従属することだけです。だからトランプの歓心を買うためにバイデンの肖像写真を嘲笑してみせた。しかし、それが民主党や民主党支持者を敵に回したことに気づいていない。次の大統領選ではたぶん民主党が勝つ。民主党の大統領は高市がオートペンの絵の前でげらげら笑ってみせたことを決して忘れないていないでしょう。秋の中間選挙で共和党が敗けてトランプがレームダック化したら、高市もそれに従属してレームダック化する他ありません。

 

―― 岸田元首相はバイデンと共に去りましたが、高市首相もトランプと共に去ることになる。

 

内田 そういうことになると思います。自民党は大統領に合わせて総裁の首をすげ替えれば、アメリカの政権交代に対処できると思っている。2028年からの次の大統領のためには別の「首」が要る。

 アメリカが再び偉大な国になる可能性はもう失われたと思います。アメリカでは大統領が変わる度に前政権の方針を廃棄し、前大統領の功績を全否定するということをこのところ繰り返しています。自分は100%正しく、相手は100%間違っているという非寛容なスキームでしか政治家たちがものごとを考えられなくなっている。トランプは前任者オバマ、バイデンの政策を全否定しました。次に民主党が大統領選で勝てば、今度はトランプの政策を全否定することになるでしょう。反DEIから、連邦議会襲撃犯の恩赦まで、トランプの発令したすべての大統領令をもう一度全部廃棄する。前任者の政治的「功績」を全否定するというようなことを選挙のたびに繰り返していれば、アメリカの国際社会における信頼性は地に墜ちるでしょう。

 アメリカはグローバル・リーダーシップをすでに放棄し、かつての同盟国を恫喝と収奪の対象としています。カナダのカーニー首相は「ミドルパワーが団結しなければならない。私たちがテーブルに着かなければ、私たちはメニューに載ることになるだろう。(if we're not at the table, we're on the menu)」とダボス会議で語りましたが、これはかつてのアメリカの同盟国の立場をよく言い当てていると思います。スペインのサンチェス首相も、イタリアもメローニ首相も今回のイラン戦争に対しては明確にアメリカとイスラエルの行動を批判し、軍事行動への加担を拒絶しています。今、同盟国の中で明確なアメリカ批判ができずにいるのは日本と韓国だけでしょう。それでも、韓国は中東に特使を派遣して、イランとのコミュニケーションを探っている。

 

 イランは日韓に対してホルムズ海峡通過の条件として、「今回のアメリカ、イスラエルのイラン攻撃は国際法違反である。イエスかノーかでお答えください」と迫ってくるでしょう。日韓はその前でためらっている。これに「イエス」と答えればタンカーは通れる。でも、トランプから「無能、腰抜け、愚鈍」と罵倒されることは目に見えている。トランプは「味方だと思っていたやつが自分から離れた場合」には激昂してそれから執拗に意地悪をし続ける人間です。マージョリー・テイラー・グリーンでも、タッカー・カールソンでもそうでした。「アメリカに非あり」と一筆念書を書けばタンカーは通れる。でも、高市早苗と李在明はSNSでトランプから怒涛のような罵倒を浴びて、日米同盟、日韓同盟はシリアスな危機に立ち入る。場合によっては日米安保条約、米韓相互防衛条約をアメリカが廃棄通告してきて、在日、在韓米軍が撤収するという展開だってあり得る。