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内田樹さんの「永井陽右君のこと」 ☆ あさもりのりひこ No.1875

それなのに日本はその平和主義を捨てて、アメリカに追随して戦争ができる国になることに前のめりになっている。永井君たちが命がけで築いてきた「平和主義の日本」という世界的な評価は一度失われたらもう二度と取り返せない。

 

 

2026年4月30日の内田樹さんの論考「永井陽右君のこと」をご紹介する。

どおぞ。

 

 

 アフリカや中東で人道支援活動をしている永井陽右君が凱風館に遊びに来てくれた。三年ぶりくらいである。この間どんなことをしてきたのか、私一人で聴くのではもったいないので、門人やゼミ生たちに声をかけて30人ほどの前で報告会をしてもらった。

 前に来た時はソマリアのイスラーム過激派組織アル・シャバーブからの投降兵の受け入れ活動に従事しているという話をしてくれた。殺し殺されということに疲れた少年兵たちに寝食を提供し、文字を教え、イスラームの教義も多様であることを教え、手に職をつけさせる。

兵士に投降を進めるのだから過激派組織からは敵認定される。命がけの仕事である。お金にもならない。でも永井君は「誰もやらない仕事だから僕らがやる」とさらりと言い切る。その辺の肚の座り方が常人ではない。

 そんな活動を十数年続けているうちに、世界のイスラーム過激派ネットワークに「アフリカや中東で支援活動をしている変なアジア人がいる」ということは伝聞で広まったのだそうである。

「この仕事では日本人であるということが大きなアドバンテージなんです」と永井君は言う。日本は平和憲法を持つ国家で、アフリカにも中東にも植民地主義的な侵攻をしたことがない。だから、過激派の諸君も永井君を見て、「変なことをするやつ」だとは思っても、帝国主義国家のエージェントではないかとか、植民地化の下心があるのではないかといった疑念は持たずにいてくれる。

 「僕がアメリカ人やイギリス人だったら、彼らは絶対に信用してくれません。」

 

 それなのに日本はその平和主義を捨てて、アメリカに追随して戦争ができる国になることに前のめりになっている。永井君たちが命がけで築いてきた「平和主義の日本」という世界的な評価は一度失われたらもう二度と取り返せない。(信濃毎日新聞4月17日)